アーリータイムズ

 自分の父親に会った事だけで驚いたのに、まさかその父親が病いに侵されているなんて真実に、俺は感情が追いついていかなかった。

 「そんなに、やばい病気なの、、、?」

 俺が聞くと父はゆっくり頷いて、俺を見た。母も、さっきまで怒っていたが少し落ち着いて父の話しを聞いていた。

 「治療法のない難病らしい。時期に目が見えなくなる。長くても四、五年しかもたないのが常らしい。この間宣告されてね。
 家族もいないし、気がかりは会社の事だけだと思っていたけれど、佳月の事がどうしても心残りだったんだ。自分が人生をかけて築いた会社を、血のわけた子に託したくなってしまったんだ」

俺は何とも言えなかった。全ての話しが急で、現実味がなかったし、目の前の元気そうなこの人があと、四、五年で居なくなってしまうなんて信じられなかった。それは、悲しいとか寂しいという感情ではなかったが、自分の中の何処か一部が消えてしまうような切なさを感じた。

 「勝手だね、あなたは何処までいっても、勝手な人間だね」

母が小さく鼻を啜りながら言った。許せない、かつて愛した男が、病に侵されている。同情はしたくないが、何とも言えない感情が渦巻いているみたいだった。

 「勝手だとはわかってる。けれど、佳月の未来の選択肢の一つに、俺の会社を継ぐ事を入れてもらえないだろうか。会社を経営する事は簡単な事じゃない。骨が折れる仕事だが、やりがいのある仕事だよ。考えてみて欲しい」

 父が俺の手を握った。その時、初めてこの人との共通点を見つけた気がした。
 この人の手は、俺とそっくりだった。爪の形や、指の長さ、手の平の厚さまでそっくりだった。

  "私、佳月の手が一番好き。大きくて、ゴツゴツして分厚くて"

灯が好きだと言ってくれた、俺と同じ手を持っている父を見て、間違いなく俺の半分はこの人で出来ているんだと感じた。そう思ったら急に涙が溢れていた。理由はわからなかったが、不完全だった自分のピースを見つける事が出来たのに、この人との時間が余りない事が悲しかった。
 この人を知る事は、自分自身を知る事と同じなんじゃないかと思った。