アーリータイムズ

 「で?佳月に話したい事って何なの?」

母はとにかく話しを早くすませたいのか、すぐに父に話しを切り出した。

 「実は、俺の会社の事なんだ」

「会社?」母はまさか父が起業をして、全国に店舗を構えるような会社の社長になっているなんて知りもしなかったので驚いた様子で、父の話しを聞いていた。

 「佳月がもし、よければだけど将来俺の会社を譲りたいと思ってる」

俺は驚いて声が出なかった。父はいきなり俺にそんな大きな会社の社長になれと言っているのか?

 「何言ってるの?何で急に佳月があなたの会社を継がなきゃいけないのよ!いきなり来てふざけるのもいい加減にしてよ!第一、あなた佳月の事何も知らないじゃない!」

「わかってるよ。だからすぐにどうこうって話しじゃない。ただ、もう高校三年生だろ?将来何かやりたい事があるのか?」

俺はそう聞かれて困った。勉強は嫌いじゃない。成績だってそこそこ良いが、これと言って何かなりたい職業があるわけじゃなかった。
 ただ漠然と東京へ出て、ここでは出来ないような大きな事をしてみたい。それだけだった。

 「特に、つきたい職業があるわけじゃないけど、、、」
 
 「それなら、一度考えてみてくれないか?勿論ちゃんと働くのは卒業してからでもいいから、勉強しながらうちの仕事を覚えていってほしい。嫌なら途中で辞めても構わない。未来の選択肢の一つにしてくれたらそれでいい」

意味がわらなかった。何で突然現れて、赤ん坊の時以来会った事もなかった俺に大事な会社を譲りたいなんて言い出したんだ?

 「やめてよ!私はもうあなたとこれ以上関わって欲しくないのよ!今更出てきて、どんなつもりよ。父親にでもなれると思ったの?」

「そんなつもりはないよ。父親になれるとも思ってない。ただ、この世で俺と血が繋がってるのは佳月だけなんだ。家族とは言えないけれど、愛した女とのたった一人の子供だ。俺が残せるものは残したいんだよ」

「何が愛よ!いつも口ばっかりで私を苦しめる事しかしなかったくせに、よくそんな事が言えるよね?」

母は涙を流していた。過去の事はわからないがこれだけ時間が経っても、母の傷は治っておらず、ただただ苦しい思いしか残っていないようだった。

 「聞いてくれ、、、頼む。俺はもう先がない。、、、病気なんだ」

父の言葉に、その場にいた全員が一瞬止まって父を見た。

 「何の冗談?」母が言うと、父は真剣な顔で言った。

 「冗談じゃない。進行性の病気なんだ。あと何年も生きられるかわからない」