「大変だった、、、まだ幼い佳月を抱えて一人で働いて育てるのは、、、。簡単な事ではなかったとわかるね？」

　祖父は父を厳しい顔で見つめた。母はあんな性格だから、俺の前ではいつも元気で明るかったが、きつい仕事をしながら一人息子の俺を育てる事は、精神的にも肉体的にも辛いものがあったのは簡単に想像出来た。
　学校の行事や、公園に遊びに行った時、母が少し寂しそうに両親そろっている家族を羨ましそうに眺めていた時の事を思い出した。

　「いくら若かったといえ、本当に申し訳なかったと思っています。あの後、景子がいなくなって、仕事の奴らにも裏切られたりして、金もなくなって、本当にどん底に落ちてホームレスみたいな生活を送って、やっと目が覚めました」

「今は一体何をしてるんですか？」

とても今はホームレスのようには見えなかった、、、。

　「ホームレスになって、ゴミを漁って生活しているうちに、東京にはまだ使えるゴミが沢山落ちている事に気がついてな。それが商売になるんじゃないかと思ったんだ」

俺も灯も、父の人生の物語に引き込まれるようにいつの間にか、話しに聞き入っていた。

　「それに気づいた時に、ゴミの環境汚染のニュースがたまたま電気屋のテレビで流れていて、これは何か出来るんじゃないかと思ったら、いてもたってもいられなくなって、すぐにバイトをして資金を貯めて、中古の物を売るリサイクルショップを開いたんだ」

「いきなり？知識もないのに？」

俺は父の余りの行動力に少し驚いた。

　「いきなり。夜の店で少し経営の経験はあったけどね。最初は全然当たらなくて苦しかったが、今では全国に店舗数を増やしていく事が出来るようになった」

それであんなに高い高級車に乗れるまでになったのか、、、。やっと腑に落ちた気がした。俺は今も父親がヤクザ紛いな事をしているんじゃないかと思ったから、少し安心した。
　別に俺の父親が、何処で何をしていようが関係ないが、やっぱり血が繋がっているならば真っ当な人間でいて欲しいと思ってしまう。

　「じゃあ、仕事も順調にいっているのに、今更なんでここへ来たんですか？」

俺が今度こそ、核心に迫ると今度は祖父が止めた。　

　「今日この後、景子はここへ来る予定だよな？」

「うん。日勤だから六時には来るんじゃない？」

「話しがあるなら、景子も交えて話しをしなさい。勝手に佳月に何かを話す事は許さないよ。はっきり言って、君は佳月と血は繋がっていても、父親ではないんだから」

　祖父はそう厳しい口調で言った。絶対に父親とは認めない。そう決めているみたいだった。
　その時、タイミングよくお客さんが入ってきて話しは終わった。