アーリータイムズ

 「本当に俺の父親なんですか?」

こんな金持ちそうな男と、母が結婚していたなんて、そこがもう怪しかった。

 「そうだよ。佳月の名前は俺が付けた。三月生まれで、佳月が産まれた日に綺麗な満月が出ていてそれで佳月と俺が付けた」

そんな話しを前に母から聞いていたが、父親が名付けたとは聞いていなかった。

 「それで?どうして急にここへ来たんですか?」

俺は産まれて初めて、実の父親に会っても感動も何もなかった。もちろん父親とも思えないし、あんまり現実としての実感がなかった。というより、俺に成瀬家以外の血が流れているという事が、あまり信じられなかった。

 「佳月に大事な話しがあるんだ。ちょっと話せるかな?車に乗って」

その人がそう言った時、灯が俺の腕を掴んだ。

 「佳月?大丈夫?本当にお父さんって証拠ないよ?連れていかれて何処かに売り飛ばされるかも、、、」

灯はそんな物騒な事を言い出したが、確かに灯の言う通り、この男が父親との証拠は何もなかった。

 「やれやれ、困ったな。まさかこんなに信じてもらえないとはね。まぁ、一度も会った事がなかったんだから当たり前か、、、」

その男が困った顔をした時、喫茶店の扉が開いて祖父が出てきた。

 「、、、じいちゃん、、、」

祖父は、俺の父親と名乗る男を見ると、驚いた様に目を見開いた。

 「一君、、、」そしてその男の名前を呟いた。
どうやら、祖父はこの男の事を知っているみたいだった。

 「ご無沙汰しています、、、」

その男は深々と、祖父に頭を下げた。祖父はその姿を見てしばらく何も言わなかったが、小さな声で「入りなさい」と言った。俺は祖父のその対応を見て、この人は本当に俺の父親なんだと思った。
 俺は、祖父とその男を交互に眺めていたが、祖父が中へ入れと俺にも言ったので、俺も二人の後についていった。
 灯が扉の前で一旦止まって「私、帰った方がいいね」と言ったが「一緒に来て」と俺が灯の腕を掴んだので、灯も仕方なくそのまま喫茶店に入った。

 どうやら俺は自分でも気づいていなかったが、いきなり実の父親と対面して、緊張しているようだった。灯はそんな俺に気がついたのか、耳元で「大丈夫だよ」と囁くと一緒にカウンターに座ってくれた。
灯が隣にいてこんなに心強いと思った事はなかった。