アーリータイムズ

 それから、灯は本気モードになったのか猛勉強を開始した。休みの日も俺と一緒に図書館に行って勉強したし。夜も遅くまで起きて勉強しているみたいだった。
 母は相変わらず東京の大学へ行く事に反対していたし、話し合いはなかなか進まなかったが、俺はもう決めていた。
   
 俺と灯は学校帰り、一緒のバスに乗ってまた喫茶店に向かっていた。その時、喫茶店の前に一台の車が止まっていて、俺と灯は足を止めた。この田舎には似合わない高級外車だったからだ。俺と灯は顔を見合わせながら、少しその車を眺めていた。
 
 「喫茶店のお客さん?」灯が俺に聞いたが俺もわからなかった。その時、突然その高級外車の後部座席のドアが開いて男の人が出てきた。
その人は身長が高い四十代くらいの男性だった。
この高級外車に似合う様に、着ているスーツも靴も身に付けている時計も全てが高級そうな物だった。俺は最初、灯の父親かと思った。世界的な指揮者だと聞いていたし、これくらいの車に乗っていても、おかしくはないと思った。
 しかし、灯はその男性を初めて見るのか、怪しんでいるような少し警戒した顔をして俺の手を強く握った。

 その男は、俺と灯の前まで来ると俺に向かって言った。

 「佳月か?」

 俺は名前をいきなり呼ばれてびっくりして何も言えなくなっていた。灯も驚いたのか、いきなり「マフィア?」と隣りで聞いていた。
 確かに背も高くて、髪の毛をオールバックにしていて、よく映画に出てくるマフィアに見えない事もなかったが、マフィアと呼ばれてその男は大笑いしていた。
 その笑い方を見ると、見た目に反して砕けた性格の人みたいだった。

 「残念ながら、マフィアではないよ。ただの佳月の父親だ」


えっ、、、?


 突然の告白に、俺は息が止まった気がした。

(ち、、父親?今この人父親って言わなかったか?)

 俺は何度も目の前の父親という男を見つめた。
咄嗟に、自分と目の前の男との共通点を探しだそうと必死だった。血の繋がりがあれば何処か似ている箇所があるはずだ。隠したくても隠しきれない、滲み出るような場所があるはずだ。
けれど隣りで灯がはっきりと言い放った。

 「あんまり似てないよね?」

灯があんまりはっきり言うので、また男は笑った。

 「君、面白いね。佳月の彼女?」

「はい。水上 灯と言います」俺がまだ一言も話せていないのに、灯は普通にその男と話し出した。

 「灯ちゃんか、よろしくね。僕は森川(もりかわ) (はじめ)と言います」

その名前を聞いても、何一つピンとこなかった。母から父親の事は一切聞かされず育ってきた。母が俺を産んですぐに離婚したと聞いていたが、それ以上の事は何も知らなかった。
 普通だったら、もう少し自分の父親について気になるのが普通かもしれないが、俺は不思議なくらいに自分の父親について全く興味がなかった。父親代わりの祖父がいつも側にいたし、小さい頃は祖母もいて、母が仕事をしていても全く寂しい思いをした事がなかったからかもしれない。