「ちょっと待って!早いよ!早すぎる!」

俺が学校までの道のりを走っていると、後ろから女子中学生が息を切らしながら声をかけてくる。

 「早く走らないと、間に合わないぞ!今だってぎりぎりなんだから!」

「そうだけど、こんな傾斜があると思わなかった!やばい、暗記した事全部頭から飛び出してきそう、、、四パイアールニジョウ、、、円?あれ?」

「それは"球"の公式な!ここ、本命なの?」

「本命!第一志望!受からなきゃ死ぬ!」

「じゃあ走れ!あと一キロくらいだ!」

「一キロ!?」俺達は、必死で山道を走った。
試験前から体力全てを使い切るんじゃないかと思ったが、とにかく走らなければ試験を受けれないので何も考えずにただ足を動かした。

 「ねぇ!君、寝坊したの?」

彼女が走りながら俺に聞いてくる。

 「お前もだろ?」

「楽しみな日の前はいつも不眠症になるの!遠足とか、クリスマスイブとか、運動会とか兎に角、前日は眠れなくなるの!」

「試験が楽しみなのかよ?」

「楽しみだよ、だって今日でやっと勉強から解放されるんだよ。最高だよ」

「そういう楽しみね。でも、数学の公式ごちゃごちゃになってたけど大丈夫?」

「図形は捨ててるの!」

彼女ははっきりと言い切っていて、逆に清々しかった。
 その後何とか二人で校門にたどり着いた時には、足ががくがくして、力が入らなかった。

 「間に合った〜、、、」

「良かったね、、、君、試験の教室何組?」

俺は聞かれて受験票を鞄から取り出した。彼女も鞄からごそごそと受験票を取り出した。

 「俺、三年四組だ」俺が受験票を見ながら言うと彼女が俺の受験票を見て驚いた顔をした。

 「成瀬(なるせ) 佳月(かづき)?」

「そうだけど?何なに?お前は、、、?」

俺が彼女の受験票を見ようとした時、彼女が言った。

 「水上(みなかみ) (あかり)

「水上か、お互い受かるといいな!」

彼女は、暫く俺の受験票を眺めていた。

 「受かると思うよ、絶対に。じゃあ!四月にまた会おう!」

彼女はそう言うと笑いながら去っていった。切れ長の目が笑うとタレ目になって、印象が変わった。

 (変な女、、、)

 彼女と初めて出会った時の印象は、変な女だった。その後無事に高校に合格して、俺の高校生活はスタートをきる事になる。
 そして、彼女の言った通りに俺達は四月にまた再会する事になった。