「成瀬と水上は付き合ったら、急に立場が逆転したな。付き合う前は水上が成瀬の事好きって感じだったのに、いまや成瀬の方が完全に溺愛してるもんな」
飯田に言われると腹が立つ気もするが、確かにそうだった。俺は灯と付き合うようになって自分がこんなに嫉妬深い人間だと初めて知ったし、とにかく灯が一番になっていた。逆に灯は付き合う前とさほど変わらず、自由だったし、
急にいなくなってしまうような不安さがあったから、余計に俺は灯を追いかけているような気がした。
「いや、溺愛してねーし!!」
「ほらっ!また佳月は強がる!いいよ行こう」
灯はそう言ってまた風太と腕を組んで歩きだした。「おーい!!何してんだよ!」俺が言うと灯は笑って走りだした。完全に灯に踊らされているだけだった。ただ、灯と風太は二人とも音楽の才能があって、何処か共通するようなものがあったから、余計に俺は嫉妬した。
俺は風太みたいな才能はないし、あんなに大らかな人間にもなれない。だから、風太が男を好きで本当に良かったと思っていた。多分、風太が女を好きだったら、才能がある者同士二人は付き合っていたんじゃないかと思った。
「なぁ、飯田はこのまま大学に行ってもバンドを続けるの?」
飯田は、文化祭でバンドを始めてから、バンド活動にのめり込んで今では、ドラムのテクはかなりのものとなっていた。風太と一緒に結成したバンドも着々とファンを増やして、今では仙台のライブハウスでワンマンライブする程になっていた。飯田はいじめられていた時が嘘のように、すっかり自信をつけて風太といつも一緒にいる事もあるが、不良に絡まれる事もなくなった。
「俺、大学へはいかないつもり。東京へ行ってバンドを本格的にやりたい」
「そうなの?進学しないの?」
俺達が通っている高校は殆どの人間が進学するので、受験しないのは珍しかった。それだけ、飯田がバンドで食べて行く事に本気だという証拠だった。
「風太は東京の音大の声楽部に入るつもりだから、俺も一緒に東京へ行って向こうでも風太のボーカルでバンドをやりたいんだ。
俺はやっぱり風太の後ろでドラムを叩きたい」
飯田は誰よりも、風太の歌声のファンだった。
風太の歌があるからバンドをやりたいと言っていたくらいで、今では二人で作詞、作曲を手がけていて、二人が作り出す、人の心に直接刺さるような、容赦ない言葉選びと、それに合い反対するようなキャッチーなメロディは聴く人間の心を打った。
「成瀬、俺ずっといじめられてて死にたいと思って生きてきたけど、バンド始めてその経験があって良かったとすら思うようになったよ」
「あんなに、辛そうだったのに?」
「ああ。俺あの時の憎しみとか、苦しさとか屈辱とか虚無感があるから、曲が書けてる気がするんだよ。普通の幸せな人生だったら、内から溢れ出るものは何もなかった気がする。風太もそうだろ?性的マイノリティの葛藤があるからこそ、あんなに穏やかな性格でも迫力のある歌がうたえるんだろ」
不良に絡まれて、中庭の隅で小さく震えていた飯田が嘘のようだった。こんなに変われた飯田の事を羨ましいとさえ思った。
「あの時、水上と成瀬が助けてくれて良かったよ」
「いや、、、俺は何もしてないけど」
「でも、いじめられて皆んなが腫れ物に触るように避けてた俺に普通に接してくれただろ?
人間なんて大嫌いだったけど、人との出会いでしか人間は変われないんだな」
そう言って笑う飯田の顔の横を、やっと暖かくなった風が通り抜けた。この肌寒い町から飛び出す時が迫っていた。変わって行く不安よりも、今の自分ではなく、何者かになりたいという気持ちの方が俺は大きかった。
飯田に言われると腹が立つ気もするが、確かにそうだった。俺は灯と付き合うようになって自分がこんなに嫉妬深い人間だと初めて知ったし、とにかく灯が一番になっていた。逆に灯は付き合う前とさほど変わらず、自由だったし、
急にいなくなってしまうような不安さがあったから、余計に俺は灯を追いかけているような気がした。
「いや、溺愛してねーし!!」
「ほらっ!また佳月は強がる!いいよ行こう」
灯はそう言ってまた風太と腕を組んで歩きだした。「おーい!!何してんだよ!」俺が言うと灯は笑って走りだした。完全に灯に踊らされているだけだった。ただ、灯と風太は二人とも音楽の才能があって、何処か共通するようなものがあったから、余計に俺は嫉妬した。
俺は風太みたいな才能はないし、あんなに大らかな人間にもなれない。だから、風太が男を好きで本当に良かったと思っていた。多分、風太が女を好きだったら、才能がある者同士二人は付き合っていたんじゃないかと思った。
「なぁ、飯田はこのまま大学に行ってもバンドを続けるの?」
飯田は、文化祭でバンドを始めてから、バンド活動にのめり込んで今では、ドラムのテクはかなりのものとなっていた。風太と一緒に結成したバンドも着々とファンを増やして、今では仙台のライブハウスでワンマンライブする程になっていた。飯田はいじめられていた時が嘘のように、すっかり自信をつけて風太といつも一緒にいる事もあるが、不良に絡まれる事もなくなった。
「俺、大学へはいかないつもり。東京へ行ってバンドを本格的にやりたい」
「そうなの?進学しないの?」
俺達が通っている高校は殆どの人間が進学するので、受験しないのは珍しかった。それだけ、飯田がバンドで食べて行く事に本気だという証拠だった。
「風太は東京の音大の声楽部に入るつもりだから、俺も一緒に東京へ行って向こうでも風太のボーカルでバンドをやりたいんだ。
俺はやっぱり風太の後ろでドラムを叩きたい」
飯田は誰よりも、風太の歌声のファンだった。
風太の歌があるからバンドをやりたいと言っていたくらいで、今では二人で作詞、作曲を手がけていて、二人が作り出す、人の心に直接刺さるような、容赦ない言葉選びと、それに合い反対するようなキャッチーなメロディは聴く人間の心を打った。
「成瀬、俺ずっといじめられてて死にたいと思って生きてきたけど、バンド始めてその経験があって良かったとすら思うようになったよ」
「あんなに、辛そうだったのに?」
「ああ。俺あの時の憎しみとか、苦しさとか屈辱とか虚無感があるから、曲が書けてる気がするんだよ。普通の幸せな人生だったら、内から溢れ出るものは何もなかった気がする。風太もそうだろ?性的マイノリティの葛藤があるからこそ、あんなに穏やかな性格でも迫力のある歌がうたえるんだろ」
不良に絡まれて、中庭の隅で小さく震えていた飯田が嘘のようだった。こんなに変われた飯田の事を羨ましいとさえ思った。
「あの時、水上と成瀬が助けてくれて良かったよ」
「いや、、、俺は何もしてないけど」
「でも、いじめられて皆んなが腫れ物に触るように避けてた俺に普通に接してくれただろ?
人間なんて大嫌いだったけど、人との出会いでしか人間は変われないんだな」
そう言って笑う飯田の顔の横を、やっと暖かくなった風が通り抜けた。この肌寒い町から飛び出す時が迫っていた。変わって行く不安よりも、今の自分ではなく、何者かになりたいという気持ちの方が俺は大きかった。



