俺は、朝から憂鬱だった。せっかく春の気持ちのいい朝陽が差していたが、気分は最悪だった。今日はついに三者面談の日だった。結局母は、俺が東京へ行く事は認めずに、進学するなら東京以外で!と強く言ってきた。
 俺が一人でバスに乗っていると、バス停に止まって灯が乗ってきた。

 「おはよう!」俺とは打って変わって元気な様子で挨拶をすると、灯は俺の座席の隣に腰をかけた。

 「おはよう。朝から元気そうだなぁ」

 「佳月は浮かない顔してどうしたの?あっそう言えば昨日の夜電話する約束してたのに、私すっかり忘れて爆睡してた!それで怒ってる?」

「そうだよ。電話するって言うから待ってたのに、メールも返信ないし、絶対寝てると思ってたよ。そんな事はどうでもいいんだけど、、、今日三者面談だぞ?」

灯はそんな事忘れていたのか、俺に言われてようやく気がついたようだった。

 「そうだった!だから佳月元気がないんだ!」

「灯、進路調査表なんて書いたわけ?第一志望何処にしたの?」

 「確か、、、第一が仙台の◯◯大学」

俺はそれを聞いてびっくりした。灯が名前を出した大学は国立のかなり頭の良い大学だったからだ。

 「えっ?えっ?そんな頭の良い大学狙ってたの?あれ?この間パティシエになるって言ってなかった?」

「あー、パティシエの専門学校はいつでも行けるから、とりあえず難関大学に挑戦してみようと思って」

意味がわからなかった。大体灯は勉強が苦手だし、今からそんな難関大学を狙って合格出来るとは思えなかった。

 「落ちたらどうすんの?浪人?」

「落ちたら東京の音大に行く。この間お父さんが帰ってきてそれだけ言って、またウィーンに帰った」

 灯の父親は、まだ灯をピアニストにする事を諦めていないようだった。確かに音大ならすぐにでも受かりそうだった。

 「仙台の◯◯大学ぐらいの難関大学に受かったら、音大には行かなくてもいいんだって。だから、私今日から必死に勉強するから」

「そうは言っても灯の頭じゃ現役はかなり厳しいだろ、、、」

「なめてるの?本気を出せば実力以上の力を出せるのが人間なんだよ?」

受験をなめているのは、完全に灯だったが、本人がやる気に満ちていたのでとりあえず放っておく事にした。
 バスから降りて校舎に向かっていると、飯田と風太が後ろからやってきた。

 「飯田君、風ちゃんおはよう!」灯は元気に二人に挨拶すると、風太に抱きついた。

 「っおい!!何やってんだよ!!」俺は風太から灯を引き離した。灯は風太を見ると何故かいつも、くっついていった。昔は風太が太っていたから気持ち良いと言っていたが、風太はダイエットに成功して、今やイケメンバンドボーカルになっていた。勿論、性の対象は男性だが、それでも灯が風太にくっついているのはいい気はしなかった。