「水上!」俺が呼ぶと、棚を拭いていた手を止めて水上が振り返った。大きな目を見開いて、俺がいる事に驚いていた。

 「成瀬君何やってんの?何でこんな所にいるの?」

気持ちを伝えたいと意気込んできたが、実際水上を目の前にすると何て言ったらいいかわからなかった。

 「水上に話しがあって、、、来た」

水上は不思議そうな顔をしていたが、直ぐに心配そうな表情になった。

 「いいけど、茜先輩に見つかったらやばくない?話しって何?」

 「いや、それはもう大丈夫」

「大丈夫って何?何で?」

 「先輩とは、別れたから」

「え?何で?」

水上はわけがわからないという顔で、俺を見ているが俺もどう話しを持っていったらいいか、さっぱりわからなくなっていた。とりあえず完璧にテンパっていた、、、。

 「俺もやっぱり水上からチョコ欲しい!」

自分でもバレンタインから半月も経って、何で急にそんな事を言い出したのかわからないし、水上もまさかそんな事を言われると思わなかったのか、かなり変な顔をしていた。

 「え、、、?チョコ?何で?」

「何でって、、、何で何で言うなよ!!」

本当に下手くそ過ぎる。
もっとこうスムーズに気持ちを伝えたいだけなのに、何故か喧嘩を売っているだけになっている。水上も俺の態度に腹がたったのか怒りだした。

 「意味わかんないんだけど!そっちがいきなり来て意味わかんない事言ってるからでしょ?
彼女が嫌がるから縁切りたいってそっちが言ったのに、別れたとかチョコ欲しいとか意味わかんないよ!!」

水上がそういって俺に次々にビート板を投げてきた。キレられても仕方ないが、あまりにも水上が勢いよくビート板を投げつけてくるので、俺はプールサイドで態勢を崩した。
 その瞬間に新たに投げられたビート板を頭の上でキャッチしようとして、俺は足を滑らせて、制服のままブルーのプールに落ちていった。

 まるでスローモーションのように、俺は背面から水飛沫をあげながら落ちていった。
 水上の驚いた顔だけが目に入った。まるでスムーズにいかない。なんでこんな事になった?
俺は塩素臭いプールに落ちながらそんな事を考えていた。

 「成瀬君!!」水上が大声で俺を呼ぶ声が水の上で聞こえた。そう、ずっと水上に名前を呼んで話しかけて欲しかった、、、。