アーリータイムズ

 「ご馳走様」

「なんだ?もういいのか?お前の好きなメンチカツなのに」

夕方喫茶店で、祖父のご飯を食べていると、俺はあまり食欲がわかず少し残してしまった。
祖父は、食器を片付けながら俺を見て少しだけ笑った。

 「灯ちゃんが来なくなってすっかり元気がないな」

図星だったが、あんまり認めたくはなかった。大体俺の方から、もうここへは来るなと言ったのに、水上じゃなく完全に俺の方が落ち込んでいた。こんな馬鹿みたいな話しはないと思う。

 「何か自分でもよくわからないんだよ。彼女の気持ちを汲んだら、水上とは今までのようにはいられなかったし、けどこれで良かったとは思えないし」

俺の言葉に祖父が今度は大きな声を出して笑った。俺はなんで笑われているのか意味がわからなかった。むしろこんなに落ち込んでいるのに笑われて腹がたってきた。

 「佳月の頭はカラカラ音がしてるか?そんなない頭で考えても、答えはいつまでたっても出ないだろ?」

「ひでーな!じいちゃん!どういう事だよ!」

「答えはもう出てるだろ?大好きなメンチカツを残してしまうくらいに落ち込んでるんだろ?それが答えだよ」

俺は、皿に残したメンチカツを眺めた。
好物だったメンチカツが喉を通らないくらいに今の俺は塞ぎこんでいた。
 原因は、いつも側にいた水上がいなくなった事だとわかりきっていた。どうして、こんなに気持ちが落ち込むのか、ただ水上が仲の良い友達からクラスメイトに変わっただけなのに、、、。

 「俺、自分が思っていたより水上の事が好きだったのかもしれない、、、」

祖父が俺の言葉に頷いた。

 「気が付いたなら間違った進路を解き直すんだな」

「今更そんな事できないよ。俺から水上にあんな酷い事言ったのに」

「生きてるうちに、今更も何もない。自分の気持ちに気づいたならちゃんと伝えろ。諦めきれるのか?あんなに楽しい時間を過ごしてきたのに」

水上と出会ってからの事を思い返していた。入試の日初めてバスで水上と出会ってから、本当によく振り回されてきたような気がするが、思い返してみれば水上と一緒にいると、本当に楽しかった。
 馬鹿みたいな事を言って笑っている明るい水上と、たまに見せる影のある水上にいつのまに惹かれていた。そして、水上の弾く美しくも力強いピアノに魅せられていた。


 「無理、、、」


もう水上のいない日常なんて考えられなかった。それくらいに、水上が側にいる事に慣れてしまっていた。