アーリータイムズ

 次の日から、水上は徹底して俺と話さなくなった。話さなくなったどころか、目も合わなくなった。俺が望んでいた事だったが、思ったよりも辛かった。今まで俺と水上がどれだけ一緒にいたのか実感した。そして、その時間がどれだけ楽しい時間だったのかもわかった気がした。

 部活の時は、マネージャーとして必要最低限の会話はしたが、それ以外は話さなくなったし、水上がふざけて俺にビート板を投げつけてくる事も、もうなかった。
 バス停で一人でバスを待っていても、遅れて水上が来る事はなかったし、一人でバスに乗っていると、帰り道がこんなに長い事に気がついた。水上といつも、ゲームをしたりふざけていたから、バスの時間があんなに早かったんだと、空いている隣の席を見て思った。

 祖父も、喫茶店に水上がこなくなって寂しそうだった。
夕暮れ時になるといつも流れていた、水上のピアノが聞こえないと喫茶店の中は寂しくて、つまらない空間になったような気がした。
 母にいたっては、水上に喫茶店に来るなと言った俺に完全に怒っていたが、怒られても仕方ないと、俺があまりに言い返さないので、母は拍子抜けして、それ以上俺を責めなかった。

 茜先輩とは、あれから何故かぎくしゃくしてしまった。先輩は、俺と水上の距離をとらした事を悪いと思っていたし、俺は俺で先輩と一緒にいても前みたいに心から楽しめなくなっていた。別に先輩の事が嫌になったとか、そういうわけではないし、ちゃんと好きだという気持ちは変わらずあったが、水上と距離をとってから俺は水上の事ばかりを探しては、追いかけてしまっていた。
 自分でもこんな気持ちになるとは思わなかった。話しかける事は出来なくても、水上が誰かと楽しそうに話している姿を見ては、前のように戻りたいと思っていた。

 水上は、俺から見て今までと変わる事なく、他の友達と楽しそうに過ごしていて、見た目には何ら変わりはなかった。変わったとしたら、隣に俺がいない事ぐらいだった。
 水上が涼太と付き合ったかは、わからなかったが、二人は前と同じように普通に話したりしていた。

 俺のこの整理のつかないぐちゃぐちゃした気持ちは何なんだろうか?自分で自分に問いかけてもわからなかった。ただ胸の辺りが重苦しくて、元気が出なかった。