アーリータイムズ

 次の日、部活の終わりに水上と同じバスに乗った。水上はいつもと同じようにくだらない話しを俺にしながら笑っていた。
 いつもだったら俺も一緒に笑えていたが、今日は全然笑えずに、ただ胸が息苦しく、これから水上に話しをしなければいけない事が気が重かった。
 そういえば俺達が初めて会ったのもこのバスだった。あれからもう一年が経っていた。

 「成瀬君、どうしたの?何か変じゃない?具合悪いとか?バス酔い?」

「いや、普通だけどさ。ちょっと水上に話しがあるんだけど」

「何?そんな地球の終わりみたいな顔して、一体何があったの?」

水上が俺の顔を見て、不安そうな顔をしていた。バスの窓の外を見ると、どんよりとした雲から今にも雪が降ってきそうだった。バスはそんな雲行きの怪しいなか、山を下っていった。

 「茜先輩に言われたんだ、水上と一緒に帰るの辞めてくれって、、、」

「一緒に帰るってこの後、喫茶店行くから仕方なくない?別々のバスで喫茶店に行くって事?」

 水上はどんどん不満そうな顔になっていった。
俺はそれに追い討ちをかけるように話した。

 「その、、、喫茶店にピアノ弾きに来るのも、もう辞めて欲しい」

 水上が酷く傷ついたような顔をして、何も言えなくなった。俺は胸が痛かった。こんな事本当は言いたくもなかった。

 「いつでも来なよって言ったのに、、、」

水上が俺にそう呟いた。水上にとってあの喫茶店がとても大事な場所になっている事もわかっていた。けれど、言うしかなかった。

 「ごめんな、、、」

 「、、、成瀬君はそれでいいの?恋人だからって、全ての要望を受け入れて、第一に優先しなきゃいけないものなの?」

「でも、相手が嫌だって思っている以上このままではいられないだろ」

俺が言い返すと、水上の目が潤んできた。それをみたら余計に苦しくなった。

 「私、成瀬君の事大切な人だと思ってた。恋人ではないけど、大事な友達だとお互い思ってるって信じてたけど、、、、成瀬君は違ったんだね」

水上の頬に涙が伝っていった。これは正解なのか?さっぱりわからなかった。ただ胸が痛くて仕方なかった。水上は涙を拭って笑った。

 「でも、友達が悩んでいるなら助けてあげなきゃね。了解!これからは、一緒のバスにも乗らないし、喫茶店にも行かない。必要な事以外は話さないようにする。これでいいよね?」

「、、、ああ」


丁度その時、バスが止まった。まだ水上が降りるバス停には早かったが、水上は座席から勢いよく立ち上がった。

 「降りまーす!!!」

水上が大きな声で言った。そして俺の方を向いて言った。

 
「成瀬君、バイバイ」水上はそう言うと颯爽と歩いてバスを降りていってしまった。
追いかけたかった。でも、あんな事を言って傷つけた俺が今更何も言えないと思った。まるで恋人が別れ話をした後のように、虚しさだけが心に残った。