アーリータイムズ

 俺と先輩は今日は一緒に帰ってご飯を食べる約束をしていた。
 部活帰りに、先輩とバス停に向かって歩いていると、学校の昇降口の横に涼太と水上が二人でいるのが目に入った。俺は話しかけようと思ったが、隣に茜先輩がいる事を思い出して、とどまった。
 二人は何か話しているようだったが、水上がバックから何かを出して、涼太に渡した。
 涼太はそれを笑って受け取っていた、、、。
俺はそれがチョコだと思った。そして俺の胸は何故かドクドクと動きだした。

 『本命しかあげないから』

 水上は俺に確かにそういった。と言う事は、水上が好きな相手は涼太ってことになる。
確かに、水上と涼太は仲がいい。仙台も結局二人で行っていたし。元々涼太は水上の事が好きだったし、水上がその気持ちに応えたとしても不思議はない。

 けど、、、何で自分の胸がこんなにもやもやするのかわからなかった。水上と一番仲の良い男が俺だと何処かで思っていたのかもしれない。

 「佳月君?」俺は、茜先輩に呼びかけられて我に返った。

 「ああ、ごめんなさい!行きましょう」

俺は、涼太と水上の姿が目に入らないようにバス停に向かった。

 その後のデートは正直に言うと、うわの空だった。せっかく茜先輩とご飯を食べて、チョコまでもらったのに、心ここにあらずだった。
ご飯を食べた後に、駅前のカフェでチョコを貰った時、茜先輩が言いにくそうに俺に言ってきた。

 「佳月君。あのさぁ、、、お願いがあるの」

茜先輩が俺に何かをお願いした事なんてなかったから、少し驚いていた。
 
 「何ですか?」店内には、カップルやサラリーマン、沢山の人がいて、外の寒さから逃れて暖かいコーヒーを飲んでいた。

 「灯ちゃんと、二人で帰るのやめて欲しい」

 店内で流れていた、流行りのJ-popが止まった気がした。俺は咄嗟に何も言えなかったが、言い訳するように言葉を出した。

 「一緒に帰ってるっていうか、その後も水上が喫茶店にピアノを弾きにくるから、一緒のバスに乗ってるだけで別に何でもないですよ?」

茜先輩は、自分の手でコーヒーカップを包み込みながら、下を向いていた。

 「その、喫茶店でピアノを弾くのも辞めてほしい、、、。何にもないって言うけど、そんな風には見えないよ?私の我儘だってわかってるけど、二人が一緒にいるの凄く嫌だなぁって思うの」

 茜先輩は今にも泣き出しそうな顔をしていた。どうして上手くいかないんだろう。俺はただ先輩に笑顔でいて欲しいだけなのに。
 目の前で不安そうな顔をしてる、茜先輩こそが俺が一番大切にすべき事くらいはわかっていた。だからその不安の原因の水上との距離を取らないといけない事もわかっていた。
けれど、俺はそれが今日まで出来ないでいた。
 それは、水上との時間も茜先輩との時間と同じくらいに大切だったからかもしれない。

 、、、けれど、、、。

 俺は茜先輩の手を握った。
あの花火大会の日、俺は茜先輩を選んだ。
何よりも優先すべきは先輩で、先輩の望みは悲しいくらいにわかっていた。
だったら、その望みを叶えてやる事が俺が出来る先輩を笑顔にする唯一の方法だと思った。