アーリータイムズ

 二月に入って、飯田と風太の初ライブが行われて、涼太と水上は二人で見に行くと興奮して帰ってきた。デビューだったのにも関わらず、飯田達のバンドは、風太の歌声と曲の良さで、一気にファンを掴んだようだった。
 また、春になったらライブが出来るような話しをしていた。

 二月十四日、今日はバレンタインだった。部活帰りにデートをしようと先輩に誘われていて、放課後の委員会が終わって部活へ行こうとしている俺の足取りは軽かった。
教室に忘れ物をした事を思い出して戻ると、水上が一人で教室の机に座って頬杖をついて窓の外を眺めていた。

 「水上?何やってんの?」

俺が声をかけると、原稿用紙のような物をヒラヒラさせていた。

 「私、図書委員なの。おすすめの本の内容を書かなきゃいけないんだけど、何か面倒で、、、」

「そうなの?適当に書けよ。ほら、部活始まるぞ?」

「書こうとしてたらさ、ほら見て?」

水上が窓の外を指差した。俺は窓の方へ行って、指差した方を見ると、体育館の横で誰かがチョコを渡していた。

 「目に入っちゃってさ。上手くいくといいなぁって。祈ってた」

「本当だ。でもお互い笑ってるし、上手くいったんじゃないの?」

「どうかな?それだといいけどね」

「お前人の心配してないで、自分はどうなの?誰かにチョコ渡さないの?」

水上はじっと俺の顔を見た。前に水上は好きな奴がいると言っていたが、誰かはわからなかった。だから今日誰かに渡すのか興味があった。

 「う〜ん。どうだろう?渡したくても、渡せない場合もあるよ。こんなに教室ガンガンに暖房入ってたら、チョコが溶けちゃう場合もあるしね」

水上がよくわからない事を言っていた。つまり渡したくても、勇気が出なくて渡せないって話しかと思った。

 「何だよ、渡さないの?じゃあ俺が貰おうか?」

俺が冗談っぽく言うと、水上はハッとした顔になった。

 「茜先輩から貰うでしょ、、、?」

「うん。まぁ、だから義理なら貰うよ」

俺がそう言うと、水上が突然座っていた椅子から立ち上がった。教室に椅子が引く音だけが響いた。水上は、怒ったような、悲しそうな顔をして俺に言った。

 「本命しかあげないから」

それだけ言うと、水上は教室を出て行ってしまった。水上が何故急に怒ったのかわからなかった。怒ったと言うより、少し悲しそうな表情をしていたのが胸にひっかかった。
 あの、花火大会の日もあんな顔をしていた。
俺は全く水上の気持ちがわからなかった、、、いや、俺はわかろうとしてなかったのかもしれない。