「そろそろ出番だぞー!!」

声がかかると、俺達は意を決して舞台に出て行った。
 
 「最後までやりきろう!」俺が声をかけると、皆んな強張った顔で、頷いた。

 俺達が舞台に出て行くと、観客が思ったより大勢いた。それだけで緊張するが、一番前に陣取っていた、不良グループが俺達が舞台に出ると、大きな声で笑いだした。

 「おい!マジかよ!バンドって聞いて、きてみたら、陰キャのライブかよ!!何?これ、オタサーですか!?」

不良グループが大きな声でヤジを飛ばしだすと、周りも同調してヤジを飛ばし始めた。
 体育館の空気が一気に、不穏なものに変わった。誰かが、一気に叩きだすと、普段は先頭きって何も言えないやつも、これは、叩いていいんだと認識する。最初は、小さな声がどんどん大きくなり、あっという間に会場はブーイングの嵐となった。

 「ボーカルマジかよ!冗談だろ!せめてやせろよ!」

「ドラムの天パ!調子乗ってんなよ!今日は泣いてちびらないんですか!?」

 同じクラスの奴らが必死に、ブーイングを止めようとするが無駄だった。小さな黒い渦はどんどん大きくなり、会場を覆っていた。

 「キモい!キモい!解散!デブ!みっともないぞ!汗臭いから退場!」

「早くアニソンやれよー!!天パ!髪切ってもキモいぞ!」

その時、観客の一人が持っていたポップコーンを俺達の方になげつけてきた。その瞬間、他のやつらも便乗して次々に投げつけてきた。集団心理の恐ろしさを、俺は初めて知った気がした。

 長田は今にも泣きそうな顔をしていたし、風太も手を強く握って、赤い顔をしたまま動かなかった。飯田は、ドラムスティックを持ったまま下を向いて泣いていた。
 クラスの実行委員が、まさかの事態にこれは続行出来ないと思ったのか、俺に向かって手で大きなバツを作った。
 中止しろという合図だった。確かにこの状態で演奏なんて不可能だった、、、。

 けど、それで良いのか?俺はドラムスティックを持ったまま、下を向いて肩を振るわせている飯田を見て思った。
 次々にブーイングと、ポップコーンを投げつけられ、正直俺も今すぐ舞台から降りたかった。
けど、飯田はこれが終わったら学校を辞めると言っていた。最後がこれで本当にいいのか?

 クラスのやつらが呼んだのか、体育館の扉から吾郎や他の先生が現れた。

 (、、、これで中止だ。せっかくバンドをやる気になったのに、こんな最悪な終わり方かよ)

 そう思った時、俺の前を誰かがふっと横切った。それは、軽く足音も立てずに急に鳥のように現れた。俺がその人物を目で追うと、

  水上だった─────