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「やっぱり男の子は誰しも、年上の綺麗な先輩に憧れる時があるんですね」

 夏目さんが呆れたような口ぶりで言うので、俺は少し笑ってしまった。いつのまにか、夏目さんに昔の恋愛話しをしてしまっていた。
 思い返せば、まだ本当に子供だったのだ。光輝くものに強い憧れを抱き、それを愛だと勘違いしてしまう。大切な物に気づきもせずに、傷つけて失ってからじゃないと気づけない。
いつもそうだった、、、。

 「夏目さんも、学生の時に憧れの先輩がいた?」

「う〜ん。いなかったですね。私はこう見えて運命を信じるロマンスチストなんですよ。どちらかと言うと、重ーいタイプなんで、その重さが相手に伝わらないように隠すのに必死でしたね」

「隠す必要あるの?」

この年になっても、女の子の気持ちなんて全くわからないものだと思った。

 「ありますよ。片思いは気持ちを悟られたら終わりですよ。スマートにいかないと。表で笑って、心で泣いて。このりんご飴と一緒ですよ。表面は甘くコーティングされていて、中は酸っぱい」

夏目さんは自分で言いながら笑っていた。
一般的な女子高校生とは、少し変わっていた灯も、そんな普通の恋心を胸の中で抱いていたのだろうか。今となっては、知る由もないが、あの頃の灯に会って、話しを聞いてみたくなった。

 「それで?その生涯忘れられない女性の事を、いつから思い始めたんですか?」

 「気づいたのは、だいぶ時間がたってからだったな」

 「成瀬さんは、鈍感な少年だったんですね。
あっ、次は大きいのが来そうですよ」

夏目さんが言うと、確かに花火が空に登る音がさっきよりも、長く長く聞こえた。
 ドドーンッと、今までで一番大きな音を響かせて、花火が上がった。さっきよりも、大きな歓声があがった。
 間違って絡まってしまった運命の進路を戻すように。俺は灯への思いに気づくんだ。
 真っ青なプールの中で、記憶の波が押し寄せる。

 「ブルーの花火ですよ」

夏目さんの声が遠くで聞こえた。