暫くすると、夏目さんが帰ってきた。
「成瀬さん、ごめんなさい。思ったより時間がかかっちゃいました。やっぱりこの町の人は皆んな、お盆になると灯籠流しをするんですよね。
流すのに、列になっていましたよ」

「風物詩だもんね、、、」

俺も、物心がついた時から、お盆には母親と一緒にこの灯籠流しをしたものだった。
小さな時は、屋台で好きな物を買ってもらって、灯籠流しをして、花火を見るのが夏休みで一番の楽しみだった。
 その母も、七年前に亡くなってしまった。母の魂を弔いたいと、俺は軽く目を閉じた。

 「成瀬さん、後少しで花火が打ち上がりますよ。あと十分かぁ。何度見てもテンション上がりますよね」

「夏目さんも、毎年来てるの?」

「そうですね。やっぱり夏の最大のイベントですからね。でも、なんで突然"記憶花火"が見たいなんて言ったんですか?」

「ある人と、、、約束をしたんだ。また一緒にこの花火を見ようって」

「それは成瀬さんの恋人ですか?ロマンチックですね。この花火は一つ花火が打ち上がる毎に、過去の記憶を鮮明に蘇らすっていいますもんね」


忘れられない記憶、過去。どうしても消えては蘇ってくる思い出。それには全て灯がいた。
喫茶店の隅で楽しそうにピアノを弾く、灯の横顔を思い出しては、会いたいと願う。

 地位や金、自分の全てをかけた仕事を取ったら、残っている物は灯との過ごした青春の記憶しか自分にはなかった。

 どうか、最後に自分の記憶を蘇らせて欲しかった。一つも取りこぼす事なく、またあの日々を堪能してから死にたかった。

 「あっ、、、あがりますよ」

夏目さんがそう言った瞬間、地上からヒューッという音がなり、高く高く登っていった。
胸の奥を貫くような大きな爆発音と共に、花火が華開いた。
 何も見えないはずなのに、はっきりと鮮明に夜空に輝く花火が目の前に見えた。

 「うわぁ、綺麗、、、」

夏目さんがそう呟いた瞬間、愛しい、懐かしい記憶に吸い寄せられるように、深い深い記憶の海に放り込まれた気がした。

 花火はタイムマシーンだ。戻りたいあの頃に一瞬で巻き戻してくれる。頭の中で静かに秒針が刻む音がした─────、、、