俺達は、放課後とりあえず軽音部に集まった。軽音部は、殆ど部員がいなくて活動していなかったので、楽器を借りれる事になった。キーボードだけはなかったので、水上が家から持ってくる事になった。

 「あのさぁ、俺本当にアコギしか弾いた事ないから、エレキギターとか無理なんだけど。しかも大会近いから練習してる暇もないし、俺は絶対に出ないからな」

「マスターが言ってたよ。成瀬君、結構ギターの腕がいいって、アコギもエレキも同じギターだよ。大丈夫」

水上は、全然俺の話に聞く耳を持たなかった。
そこで、ボーカルに任命された加藤も話しだした。
 
 「あの、俺なんでボーカル?自分で言うのもなんだけど、ボーカルってキャラじゃないんだけど。グループ的にも地味グループだし、このヴィジュアルだし?向いてないと思うけど」

水上がそこで突然加藤の手を取った。加藤もいきなり手を握られてびっくりしていた。

 「加藤(かとう) 風太(ふうた)君!合唱部での歌声聴きました!素晴らしいテノールでした!重厚で、厚みがあって、それでいて優しい声で、一発で好きになりました!」

俺は唖然として、水上を見つめていた。こいつはいきなり告白でもし始めたのかと思った。
 加藤も水上にベタ褒めされて、満更でもなさそうだった。

 「あ、、、あの、俺は絶対に無理だから」

後ろから、飯田が天パの髪をかきながら言ってきた。

 「皆んなの前で演奏するとか絶対に無理。目立ちたくないし」

「でも、吹奏楽部でしょ?皆んなの前で演奏するじゃん」

「吹奏楽は、人数多いし、そこまで注目されないし、こんなバンドとかやったら、絶対にまた目をつけられる。お願いだからもうひっそりと生活したいんだよ」

目をつけられるのは、朝絡まれていたやつらにだろうか?確かにバンドなんかをやったら目立つし、調子に乗っていると思われても仕方ない。

 「ねぇ、飯田君凄くリズム感がいいよね。前にドラム叩いてるのみて思ったの。どうして吹奏楽部入ったの?少なくてもドラム叩くの好きだからじゃないの?」

だから朝『リズム感だけは凄くいいんだよなぁ』って言ってたのか。飯田はパーマ頭の下から鋭い目で水上を睨んだ。

 「お前にはわからないよ。ピアノの才能があって、顔も美人で、皆んなから一目おかれて、何でも持ってんじゃん。俺に構ってなんか優越感にでも浸ってんの?不細工で、虐められてる俺が可哀想だと思ってんだろ?」

完全に言い過ぎだと思った。側で聞いていた俺まで気分が悪くて、言い返したくなった。
 水上は黙って、聞いていたが少しすると、口を開いた。

 「私の一部しかしらないくせに、私の全てを知った気になって勝手に羨ましがらないで、あんたは私になった事あんの?」

水上は鋭い目で、飯田を見つめた。その目には何とも言えない迫力があった。
 加藤も心配そうに、二人の顔を交互に見比べていた。

 「明日キーボード持ってくる。部活終わったら少し練習しよう。一生そのまま、あの子達から逃げてひっそり生きるなら、明日来なくてもいいよ。じゃあ、今日は解散!」

水上はそう言うと、軽音部の部室を出た。
俺は、そのまま水上を追いかけた。