「それでねぇ、忙しくても時間をさいて患者さんの気持ちに寄り添うのがターミナルケアの一番重要な仕事だと思うんだけどね、部長はそうじゃないのよ」
母は、病院のターミナルケアの病棟で働いていた。主に終末期の患者をケアする病棟で、母は自ら希望してその病棟に配属された。しかし、自分が思っているような理想のケアはなかなか出来ないらしく、たまにこうして愚痴を吐いていた。
「そうなんですね、、、でも辛くないですか?死を迎える人のお世話をするって、凄く大変だと思うんですけど」
確かに、水上の言う通り精神的にも大変な病棟だと思うので、母が何故自らそんな仕事をしたいと思ったのか、俺も不思議に思っていた。
医療従事者として、病気を治して元気になって欲しいという思いと、真逆な仕事に感じていた。
「そうね。辛い時もあるけれど、とても尊い仕事だと思うのよ。その人の、残りの時間を充実させて、安らかに死を迎えられるように寄り添う。そんな仕事は中々ないと思ったの。人の死とは必ずしも、ネガティブな事じゃないのよ。
その人が新たな世界に飛び立つスタートでもあるのよ」
「新たな世界に飛び立つ、スタートですか」
俺は、身近な人が死ぬ経験をした事がなかったので、人の死についてあまりイメージがわかなかった。けれど、大切な人が死んでしまう時、そんな風に思う事が出来るか疑問だった。
母の話しを聞いていた水上が、いつになく物思いにふけるように、何処か寂しげな顔をしていた。
水上は基本的に、いつも笑っていて、わけのわからない事を言ったり楽しそうにしていたが、たまにこんな寂しげな、影のある顔をしていた。俺は、水上のそんな所が無性に気になっていた。
「じゃあ、そんな疲れた景子さんの為に一曲弾きますね」
水上がいつもの明るい顔になって、ピアノに向かった。
母が嬉しそうに拍手をすると、他のお客さんも拍手をしだした。水上は皆んなの拍手に一礼すると、鍵盤に手を置いた。
水上が音を奏でると、優しいジャズの音色が煌めいてパラパラ落ちてきた。
人の心の疲れを解いて癒していくような、そんなピアノを水上は弾いていた。
隣で母が目を潤ませていた。指先だけで、人を感動させてしまう、そんな水上を俺は尊敬していた。
「本当に、神様が授けたような才能ね」
母がぽつりと呟いた───、、、。
母は、病院のターミナルケアの病棟で働いていた。主に終末期の患者をケアする病棟で、母は自ら希望してその病棟に配属された。しかし、自分が思っているような理想のケアはなかなか出来ないらしく、たまにこうして愚痴を吐いていた。
「そうなんですね、、、でも辛くないですか?死を迎える人のお世話をするって、凄く大変だと思うんですけど」
確かに、水上の言う通り精神的にも大変な病棟だと思うので、母が何故自らそんな仕事をしたいと思ったのか、俺も不思議に思っていた。
医療従事者として、病気を治して元気になって欲しいという思いと、真逆な仕事に感じていた。
「そうね。辛い時もあるけれど、とても尊い仕事だと思うのよ。その人の、残りの時間を充実させて、安らかに死を迎えられるように寄り添う。そんな仕事は中々ないと思ったの。人の死とは必ずしも、ネガティブな事じゃないのよ。
その人が新たな世界に飛び立つスタートでもあるのよ」
「新たな世界に飛び立つ、スタートですか」
俺は、身近な人が死ぬ経験をした事がなかったので、人の死についてあまりイメージがわかなかった。けれど、大切な人が死んでしまう時、そんな風に思う事が出来るか疑問だった。
母の話しを聞いていた水上が、いつになく物思いにふけるように、何処か寂しげな顔をしていた。
水上は基本的に、いつも笑っていて、わけのわからない事を言ったり楽しそうにしていたが、たまにこんな寂しげな、影のある顔をしていた。俺は、水上のそんな所が無性に気になっていた。
「じゃあ、そんな疲れた景子さんの為に一曲弾きますね」
水上がいつもの明るい顔になって、ピアノに向かった。
母が嬉しそうに拍手をすると、他のお客さんも拍手をしだした。水上は皆んなの拍手に一礼すると、鍵盤に手を置いた。
水上が音を奏でると、優しいジャズの音色が煌めいてパラパラ落ちてきた。
人の心の疲れを解いて癒していくような、そんなピアノを水上は弾いていた。
隣で母が目を潤ませていた。指先だけで、人を感動させてしまう、そんな水上を俺は尊敬していた。
「本当に、神様が授けたような才能ね」
母がぽつりと呟いた───、、、。



