水上が、ピアノを弾き終わると、皆んなが一斉に歓声をあげて拍手をした。
　水上はその歓声にぺこぺこ頭を下げながら「神様でごめんなさい」とわけのわからない事を言って、席に戻ってきた。

　「灯ちゃん！まじで凄いよ！本当に天才だよ。俺、まだ鳥肌たってるよ」

涼太がそう言って、水上に鳥肌を見せていた。

　「やばい。本当にめっちゃでてるよ？早くしまって、鶏皮思い出してきた」

二人は笑いながらそんなくだらないやり取りをしていた。俺は水上が帰ってきても、驚いて何も言えなかった。それくらいに、水上のピアノは衝撃的だったのかもしれない。

　「どうしたの？成瀬君、まだ怒ってるの？変態って言った事！冗談だよ。良いと思うよ、茜先輩、凄く素敵な先輩だと私も思うよ」

　「お前、、、天才だったんだな」

俺は辛うじてそれだけ言葉に出した。涼太も水上も俺を見てぽかんとした顔をしていた。

　「何？お前灯ちゃんのピアノにそんなに感動したわけ？いや、凄かったもんな。お前の気持ちもわかるよ」

「感動した、、、まじで」

「当たり前だよ。神の手だからね」

水上がまた変なポーズをして、目尻を下げて笑っていた。
その時、祖父が水上の所にやってきた。

　「君、凄いね。感動的な演奏だったよ」

「ありがとうございます」水上が少し驚いてそう返すと、祖父がいきなり頭を下げた。

　「君のピアノの虜になったんだ。たまにここでピアノを弾いてもらえないか？」

「じいちゃん？いきなり何言ってんだよ。無理だよ」

祖父は一発で、水上のピアノのファンになってしまったようだった。元々ジャズ喫茶のこの店を始めたくらいだから、祖父は昔から音楽が好きだった。

　「いいですよ？ジャズなら弾いても」

俺も祖父も水上があっさり引き受けてくれたので少し驚いた。祖父は顔を上げて水上の顔を見つめていた。

　「ありがとう！バイト代なら払うから！」

「いらないです。私も空いてる時しかこれないんで、ジャズは好きなんです。私でよければ弾きにきます。部活終わった後でも？」

「もちろん構わないよ！ありがとう！本当にありがとう！」

祖父は大喜びだった。けれど、俺もまた水上のピアノが聴けると思うと物凄く、ワクワクしていた。