「灯ー!!ピアノあるから皆んな一曲聴きたいって!」

女子部員が突然水上に話しかけた。確かに喫茶店には古いピアノとアコースティックギターが置いてあった。
 どちらも、祖父が昔弾いていたもので、ギターは俺も祖父から教えてもらった事があるので、簡単な曲なら弾けた。呼ばれた水上が席を立って、ピアノの方へ行った後、涼太が俺に話しかけてきた。
 
 「なぁ、どう思う?宮沢賢治ってどんな男だよ?」

「さぁ?俺にわかるわけないだろ?」

「でも、お前らなんだかんだで仲いいじゃん!毎日同じバスで帰るし、なんかいつもちょっかいだしあってるし」

「別に仲がいいわけじゃねーよ。確かに水上は面白いとは思うけど、何考えてるんだかよくわからない」

それが正直な気持ちだった。水上と一緒にいると楽しいし、女子の中では仲が良い方だと思うけど、恋愛感情もないし、いまいち水上の考えている事はわからなかった。

 「灯ちゃんってさぁ〜なんか唯一無二って感じがするんだよね。そこが良いんだよ」

唯一無二、、、確かに水上みたいな雰囲気を持った女子はあまりいなかった。

 「皆んなー!灯が一曲弾いてくれるって!」

女子部員がそう言うと、皆んな盛り上がった。

 「よっ!神の手!」 「天才ピアニスト!」

調子の良い掛け声を皆んながかけると、水上は鍵盤に手を置いてピアノを弾き出した。
 
 水上の細くて長い指が鍵盤の上を滑らかにすべるように踊っていた。
 ピアノの良し悪しなんて俺はよくわからなかったが、水上がピアノを弾き出した瞬間、キラキラとした音が天から降ってきているような気がした。それまで囃し立てていた部員達もただ、黙って水上の奏でる音に耳を傾けていた。

 「すご、、、」

涼太が隣で呟いた。聞く人皆んなを魅了してしまうような、そんなピアノを水上は弾いていた。
 弾いている曲は、人気のアニメ映画の主題歌をジャズ風にアレンジしたものだった。厨房にいた祖父も余程驚いたのか、奥から出てきて水上のピアノを弾く姿を見つめていた。

 正に"神の手"だ、、、。

そうとしか思えなかった。