水上が突然ストップウォッチを鞄から取り出した。タイムを計る為に使っている、部活のストップウォッチだった。

 「秒数を当てっこしようよ。私が十秒って言ったら、心の中で数えてストップって言ってね。秒数が近い方が勝ちね」

「いいけど、罰ゲームは?罰ゲームがあった方が盛り上がると思うけど?」

「いいね!負けた方が明日自販機のジュース奢るでどう?」

「オッケー!じゃあ俺からな」

「じゃあまずは十秒!いいですか?スタート!」

 俺は頭の中で十秒を数え出した。部活で毎日タイムを計っているので、秒数の感覚はある方だと自信があった。

 「ストーップ!!」俺が言うと、水上がストップウォッチを止めた。

 「おー凄い!!九秒八!!いい数字だね」

「よしっ!!流石だな」

「じゃあ、次私ね。ピタリ賞を狙ってみせるから」

「無理無理!」 「私を誰だと思ってるの?神だよ」水上がそう言ってまた変な神のポーズをしていた。

 「はいはい。じゃあ、十秒スタート!」

水上は真剣に秒数を数えていた。あまりにも真剣な顔で数えていたので、俺は思わず笑ってしまった。

 「ストップ!!」

水上がそう言ってストップウォッチを見ると、十秒を裕に超える、十三秒だった。

 「おーい、全然だめじゃん!神様!」

俺がからかうと、水上は不思議そうに、ストップウォッチを眺めていた。

 「あれ?おかしいなあ。まあ、三秒くらい誤差だよね?」

「全然誤差じゃないから!競泳で言ったら、三秒タイム違ったら、六メートルは違うからな」

「え?そんなに違うの?ちょっと待って!もう一回やってみよ?」

その後、十回はそんなゲームをやったが、水上は全然時間を当てれないどころか、大幅に外していた。

 「なんか、時間の間隔ずれてんじゃないの?お前だけ時空がズレてるみたいな?だからよく遅刻するのか」

「とても悔しいけど、そんな気はする。あーあ、私が全敗かぁー!こんなゲームするなんて言わなければ良かったー!損したなぁ!悔しいなぁ!」

水上がまるで、小学生みたいな口ぶりで、そんな事を言っていた。

 「相手が悪かったな。俺が強すぎる。じゃあ、明日ジュースよろしく十回勝ったから十本な」

「あっ!私ここで降りるから!じゃあね成瀬君!」

水上が誤魔化すように、バスから降りてしまった。俺は窓から、水上を見下ろすと水上が手を大きく振っていた。
 次の日学校へ行くと、机の上に十本のコーンポタージュの缶が置いてあった。俺は直ぐに水上だと気がついた。

 「お前、なんでコーンポタージュなんだよ!しかもこんなに大量に!嫌がらせか」

「だって、罰ゲームだから。私負けたし?約束守ったの」

「コーンポタージュとは言ってないけど?うわぁこれ持って帰るの重いしだるいけど!お前も持って帰れよ」

「私、コーンポタージュ嫌いだからさ、ほらチャイムなっちゃうからじゃあね」

自分の席に戻った水上は唖然としている俺を見て、ずっとにやにやしていた。これじゃ、どっちが罰ゲームなのかわからない、、、。
その日から、俺は帰りのバスで水上と一緒になり、二人でいつもくだらないゲームをして帰った。
 水上は変な奴だけど、一緒にいると何故か妙に楽しくて、帰りのバスで盛り上がり過ぎて注意される事もあった。