開陵高校は室内プールが完備されていた。流石、私立高校というだけあって立派なプールとトレーニングマシーンも完備されていた。綺麗に磨かれたタイルと、ブルーに揺れるプールの水、塩素の匂いが鼻につく。水飛沫をあげながら、部員が綺麗なフォームでメニューをこなしている。
 そこに突然笛がなり、男のコーチが皆んなを招集した。

 「今日は、新しい部員を紹介する!先月、マネージャーが辞めて募集していたが、新一年生が二人入ってくれた」

そういって現れたのは、見覚えのある顔だった。一人は知らない女子だったが、もう一人は、、、

 「水上 灯です。水泳については全く知りませんがよろしくお願いします」

俺は、水上が急に水泳部に入ってきて驚いたし、隣りにいた涼太も、他の部員も天才ピアニストが、急に水泳部に入部してきて少しざわついていた。
 水上はそんな周りの様子を気にせずに、先輩マネージャーについて色々教えてもらっていた。入試の日に偶然知り合った子が、同じクラスで部活も一緒になるなんて、少し運命めいたものを感じたのは事実だ。
 部活が終わり、俺がバス停で帰りのバスを待っていると、水上がまた走りながらやってきた。

 「セーフ!間に合った!」

このバスが学校から帰る最終のバスだった。乗り遅れたら、また歩いて帰らなければいけなかった。

 「お疲れ!」俺が水上に声をかけた時、五分遅れてバスが、到着した。俺と水上はバスに乗り込むと、二人がけの座席に腰をおろした。

 「なあ、何でいきなり水泳部に入ったの?」
俺は全部員が気になっていただろう事を聞いてみた。

 「今日一緒にマネージャーになった由香(ゆか)っていたでしょ?彼女が水泳部に好きな子がいるらしいよ?それで誘われたの」

余りにも拍子抜けするような単純な答えだった。バスが発車すると、彼女は楽しそうに窓の外を眺めた。

 「聞いたんだけど、水上ってピアノのが凄く上手いんだろ?"神の手"って呼ばれてるって聞いたけど」

水上は手を胸に当てて「そうです、私が神です」と言い出した。ふざけていたが、胸に添えられた手の指は、確かに細くて長かった。

 「怪しい宗教かよ。そんなピアニストが部活なんて入って大丈夫なの?」

「今、ピアノ休んでるんだよ。だから、違う世界も見てみたかったの、それに私塩素の匂いが好きなんだよね。ツーンとして、爽やかでしょ?」

今いちピンとはこなかったが、俺はそれ以上は突っ込まなかった。バスの窓の外では夕陽が遠くの山を染めていた。

 「成瀬君、暇だからゲームしようよ?」