地元の駅前で灯を待っていると、灯がすぐにやってきた。灯に会うのは喧嘩して以来だったから、かなり久しぶりだった。地元の駅で待ち合わせなんかをすると、まるで昔に戻ったみたいだった。

「佳月、ごめん。待たせたね」

「いや、全然。俺も今着いた所」

俺達は、二人で顔を見合わせると、わだかまりがなかったかのように、笑いだした。
 
 「懐かしいな、ここで待ち合わせするの」

「うん。懐かしい。今日は?どうする?何処いくの?」

「うーん。じゃあ映画でも見る?」

 俺がそう言うと、灯は明るい顔になって俺の腕に抱きついてきた。

 「いいね。私がみたい映画でいいの?」

「また、ホラーだろ?」

「違うよ。こんな真冬にホラーなんてやってないって。さぁ行こう」

俺と灯は二人で映画館まで行った。灯は絶対に食べきれないのに、大きなポップコーンにしたいと言ってきかなかったし、迫力が欲しいからと、観づらい前の方の席を選んだ。
 
 「これ、ラブストーリーじゃない?珍しくない?灯がラブストーリー見たいなんて」

「そうでしょ?でも、ピアノを教えてる生徒さんが凄く面白かったって言ってたの」

「へぇ〜灯とホラー以外の映画をみるなんて新鮮だな」

灯はポップコーンを口に入れて、少しおかしそうに俺に言った。

 「あのさ、別に私ホラーが好きなわけじゃないよ?怖いやつ好きじゃないし」

確かに灯はホラーをみたいと言う割に、怖がってちゃんと見ていなかった。

 「じゃあ何でいつもホラー縛りなんだよ」

「怖い映画なら、佳月にくっついていられるからだよ」

 俺は灯の意外過ぎる言葉に少し驚いた。灯は怖いと言って映画を見ながらよく俺にくっついていた。灯は少し恥ずかしそうに笑っていた。

 「そんな理由だったの、、、?」

「佳月は本当に鈍感だよ。恋する女の気持ちが全くわかっていないんだから」

 俺はいつも灯に鈍感だと怒られていた。きっと他にも灯の気持ちに気付いてやれない事が沢山あったんだろう。

 「でも、そこが好きだった、、、」

灯がそう言った時、照明が暗くなり巨大なスクリーンに予告の映像が映し出された。映画は悲恋のラブストーリーで、最後に二人が結ばれる事はなかった。
 灯は映画を見ながら静かに涙を流していた。俺は灯の綺麗な横顔を見ながら、胸の奥がぎゅっと痛くなった。