アーリータイムズ

 「俺、灯の事ちゃんと見ていなかった」

もう遅いだろうか?灯の気持ちは完全に俺から離れてしまったのだろうか。

 「灯ちゃんは佳月の事をずっと見ていたのにね、、、」

「、、、どう言う事?」

「灯ちゃんは、佳月の考えている事なら言わなくても全てお見通しよね。あなたが何をしたいのか、どう生きていきたいのか、ちゃんと理解して尊重しようとしていた。それが灯ちゃんにとって辛い事でも」

「灯から何か聞いたの?」

母は悲しそうに首を振った。

 「自分で直接灯ちゃんに聞いてみなさい。灯ちゃんの気持ちを」

俺は病院を出ると、祖父の喫茶店まで行った。
祖父の喫茶店は何も変わらず、昔と同じように阿武隈川沿いに建っていた。毎日のように、ここへ夕飯を食べてにきていた時の事を思い出して、懐かしく何故か寂しく感じた。
 喫茶店の扉を開くと、祖父が昔よりも年老いて、少し背中が丸くなりながらもコップを拭いていた。

 「よぉ、佳月。元気そうだな、少し痩せたか?」

祖父が俺にそう言いながら笑いかけた。喫茶店の中も昔のまま変わりはなかったが、お店の匂いが少し変わったような気がした。
 俺が店の人間じゃなくて、他所の人間になってしまったからか、嗅ぎ慣れた匂いに違和感を持つ様になってしまったみたいだった。

 「じぃちゃんも、何とか元気そうだな」

「まあ、ぼちぼちな。あと何年この店をやれるかわからないが、やれるうちはぼちぼちでもやっていくよ」

 祖父は俺にコーヒーを淹れてくれた。久しぶりに祖父の淹れたコーヒーを飲むと、心の底からホッとして、全身の緊張がほぐれていった。
窓の外を眺めると、阿武隈川がきらきらと輝きながら水面を揺らしていた。

 「ここからの景色は変わらないな、、、」

俺が呟くと、祖父が少しだけ笑って言った。

 「いつまでも、変わらない。"古き良き時代"のままだろう?」

「古き良き時代か、、、」

確かに、灯との学生時代の頃を思い出すと、全てが輝きに満ちていて、全力で青春を謳歌していた。何年経っても褪せる事のない、古き良き時代のようだった。

 俺は灯にメールを送っていた。とにかく今、灯に会いたかった。

 "話しがあるんだけど、いつ会える?今何処にいる?"

俺は、今すぐ東京に帰ってでも灯と話しがしたかった。多分、今の俺達の関係は別れるほんの一歩手前だろう。昔の俺達とは変わってしまっても俺は形を変えて、灯を愛していた。
灯の笑顔が見たかった。ずっと大切にすると約束していた。このままその約束を破るわけにはいかなかった。

 携帯が鳴ると、灯からメールが来ていた。

 "今、地元にいます。まだ東京には帰りません"

偶然にも、俺達は二人で地元へ帰っていた。