「入試の日にたまたま同じバスで、渋滞にはまって二人で学校まで走ったんだよ」

 「はじめまして、佳月と同じ中学の大橋涼太です!灯ちゃん、よろしく」

涼太がわざわざ、握手までしていた。水上も、嫌な顔をせずに笑いながらそれに答えていた。

 「灯ー!!隣のクラスに美香いるよー!」

水上は呼ばれて、女子の方へ行ってしまった。俺は突然の再会に少し驚いていた。まさか、同じクラスになるとは思わなかった。
  
 「なぁ、お前凄いな!水上灯と仲良くなるなんて!」

涼太が俺に興奮して言ってきた。

 「何で?」俺が聞き返すと涼太は信じられない顔で俺を見てきた。

 「お前、水上 灯を知らなかったのか?」

涼太の言っている意味が全然わからなかった。
まるで、水上が有名人みたいな言い方をしてくるが、俺は入試の日にバスで会うまで水上の事を全く知らなかった。

 「マジかよ、、、お前本当に水泳以外の事何にも知らないのな?水上 灯はこの町では有名人だよ。ピアノが凄く上手いらしくて、世界の有名なコンクールで賞を取って、テレビの取材が学校とかにも来てたらしいぞ」

全然知らなかった。世界って、、、凄いなぁ。
そんな有名人が同じ高校にいたのか。

 「何で、こんな田舎に住んでるんだ、、、」

「母親の実家が、こっちらしいよ。母親もピアニストで、父親も有名な指揮者らしいぞ、まさにサラブレッド!」

「そりゃあ、凄いな、、、才能があるんだ」

あの日話しただけだと、とてもじゃないけどそんな凄い奴には見えなかった。

 「"神の手"って言われてるんだよ。それくらいピアノが上手いんだって。けど、可愛かったなぁ〜いいよな。灯ちゃん」

「可愛い?お前タイプなの?なんか変わってるよな?」

「普通に可愛いだろ!お前のお陰でお近づきになれて嬉しいよ。たまにはいい事してくれるな!」

「たまにはって何だよ。まあ、どうでもいいけど」

「佳月はずっと、茜先輩しか見てないもんな!
今日から早速部活だろ?茜先輩に会えるの久しぶりじゃん!」

茜先輩は、俺の一個上の同じ水泳部の先輩で、俺は中学の時から茜先輩に憧れていた。
茜先輩がいるから、この高校を受けたといっても過言ではなかった。
 水泳部でもエース的な存在で、美人で大人で優しくて、まさに男の憧れを全て持っているような人だった。
 茜先輩を好きな男は沢山いたし、俺が気持ちを伝える事は出来なかったが、それでも密かにずっと思っていた。
 また同じ部活で水泳が出来ると思っただけで、胸が高鳴って嬉しかった。