お盆の時期、暑い太陽が沈み始め世界をオレンジとブルーのグラデーションに染めあげる時、阿武隈川に小さな命を乗せた灯篭が幾つも幾つも流れていく。

 小さな命の灯火は、穏やかな川の水をゆっくりとあの世に向かって流れていく。私は手に持った灯籠に小さな火を灯すと、水面に浮かべて静かに手を離した。灯籠は音をたてずに、静かに川の流れに乗って進みだした。
 無事に流れに乗って進み出した灯籠を眺め、私は手を合わせた。この地域では、お盆の時期になると毎年、灯籠流しが行われてきた。死者の魂を弔う為に行う行事だが、私はこの日、死者へ懺悔をしに来ていた。

 謝っても、謝っても、謝りきれない。人の死は、到底乗り越えられないような傷を残していく時がある。死んだ人間には、もう何もする事は出来ないんだと、中学三年の私は痛い程思い知った。
 ただ、安らかに、、、私は川に流れていく命の明かり見つめ、その幻想的な景色に自分が溶けて消えてしまいそうな気がしていた。

 空はすっかり、オレンジから紺色に変わり漆黒の闇になっていた。
川沿いのグラウンドでは、数えきれない屋台の明かりが煌めいていて、楽しそうな人々の声が聞こえていた。そんな楽しそうな声を掻き消すかのように、突然漆黒の空に大きな、大きな、花火が咲いた。
 今にも溢れ落ちそうな花火は、散っては咲いてを繰り返した。この地域に伝わる"記憶花火"と呼ばれる特別な花火だった。

 この花火を見ると、過去の記憶が自然と蘇ってくる。そんな言い伝えがあった。
それは、灯籠で流した死者の事を、忘れない為に大切な記憶を打ち上げるからと言われていた。

 胸を突き上げるような大きな音を町中に響かせて、大きな花火が上がる度に、私の胸の当たりにも苦しい異物が込み上げてきて、涙が溢れ出してきた。何回も何回も、込み上げてくる胸の苦しさを吐き出しても涙が止まる事はなかった。
 
 一人膝を抱えて涙にくれて、ふと川に目をやると一つの灯籠が、私の方へ向かって流れてきた。
 まるで意志があるかのように、その灯籠は川の流れに逆らって、私の前まで流れてきた。
私は少し不気味に思いながら、目の前に流れてきた灯籠を震える手で手に取った。
 灯籠の中の蝋燭は、残り少なく今にも消えてしまいそうだった。
 その蝋燭の横に、白い封筒が置かれていた。
私はその手紙を手に取ると息を飲んだ。

"水上(みなかみ) (あかり)様"

そう書いてあった。私は全身に鳥肌がたつのを感じた。その名は私の名前だったからだ。
 何かの間違いだろうか、、、。しかし、川を流れる沢山の灯籠と、打ち上げられる大輪の花火が幻想的で、説明がつかないような、不思議な事がおきても可笑しくない気になっていた。
 私は震える手で、その封筒から便箋を抜きとると、手紙を読み始めた。

 ヒュ──ッド──ンッッ!!!


 私の頭上で、また記憶花火が打ち上げられた。高く高く打ち上げられた花火は、大きなオレンジ色の火花を散らして降り注がれた。

 息をするのも忘れるくらいに、私は驚きと興奮で、空を眺めて、持っていた手紙を地面に落とした。




手紙の差出人は、二十五年後の私だった、、、