俺達のバンドは三曲演奏をした。
鳴り止まない歓声と興奮覚めやらぬうちに、舞台を降りると玲がいた。
 玲が俺に向かって走ってくると抱きついてきた。

 「玲、走るなって!」

 俺が思わず声をあげても玲は聞いちゃいなかった。玲はそのまま俺の首に抱きついてきた。

 「だって、感動した!シンジ!良かったね大成功!最高に盛り上がってたよ!かっこ良かった!」

 俺が「ありがとう」と言って玲を抱きしめると、後ろにイゾンとカブさんもいた。

 「シンジさん!!最高だったよ!ギター神ってました!『Colosseum』時代より、なんか上手く言えないですけど、感動しました」

 イゾンは何故か目を潤ませ、約束通りに"シンジ"と書いてある、うちわを持っていた。

 「シンジ君、こんなに歌もギターも上手いなんて知りませんでしたよ!私が司会してた歌番組に出てた、バンドより良かったですよ!」

 二人が身内贔屓で褒めてくれる。俺はそれが何より、嬉しかった。
物凄い緊張から解き放たれて、三人の顔を見た途端に一気に気持ちが安心した。
 帰る場所がやっと出来たような、そんな気分になった。

 俺達はその後も、フェスを楽しんで、夜はプールサイドでBBQをした。
俺のフェス成功と、カブさんの壮行会も兼ねてパーティーをした。

 相変わらず、熊さんと玲は喧嘩をしたままだったが、少しだけお互いに歩み寄っているような雰囲気がみれた。

 「シンジさん達のバンド『New World』
ってバンド名にしたんですね。シンジさんが決めたんですか?」

 イゾンが分厚いステーキ肉を焼きながら俺に聞いてくる。

 「いや、メンバー皆んなで決めたんだよ。
即席のバンドだったけど、名前を一応決めなきゃならないってなってさ、なんかどうせなら大きくでた名前が良いよなって、ノリで考えた」

 「勿体無いですね。
めちゃくちゃかっこよかったのに、野外フェスが終わったら、解散なんて、、、。もっと見ていたかったなぁ」

 イゾンはよくバンドの練習を見にきていたし、
バンドのメンバーとも仲良くなっていたので、
このバンドに思い入れがあったのかもしれない。

 「お前、アニソンしか興味ないとか言ってたけど、今日のフェスでものりのりだったよな。
ロックが好きになったわけ?」

 「はい!大好きになりました!
シンジさん!やっぱり僕シンジさんの追っかけしていきますね!」

 「いや、いいわ、、、。お前って基本ストーカー体質だよね」

 「好きな物に一途なだけですよ!!これは僕の長所です!」

 イゾンが言い切る。まあ、確かに裏を返せば長所かもしれない。
 一つのものに、ここまで夢中に慣れるのも凄い事だ。

 「イゾン、今日で『New World』は解散だけどさ、俺は音楽は辞めないよ。曲は書き続ける」

 「そうなんですね!良かった。安心しました。
僕、まだまだシンジさんの曲聞いていたいです。これからも新曲楽しみにしてますよ。
音楽の事はよくわからないですけど、僕良いものを見つける才能があると思うんですよ。
シンジさんの曲は凄く惹きつけられました」

 「まあ、結局『才能がない』ってレコード会社に断られまくってたけどな」

思い返せば、昔は自分よがりの音楽しか作っていなかったので、デビュー出来なかったのも今となっては、頷ける。