玲は、いつになく真剣な表情でそう告げた。
俺は玲からそんな話しは聞いていなかったので、正直面食らった。

 「東京の美術館で、今回のコンクールの入賞式があるの。
 私の絵が大きな美術館に飾られて、大勢の人が見てくれている所を自分の目で見てみたいの。
入賞式には、有名な画家もきて私の作品を寸評してくれるの。私、、、絶対に行きたい」

 玲の気持ちはわかる。
自分の描いた絵が選ばれて、大きな舞台に飾られている。それを見たいと思うのは、絵描きとして極々普通の感情だと思う。

  しかし───。

 玲の身体で、東京なんて行けるのだろうか。
この綺麗な空気と、自然の環境にいるから玲はまだ、元気でいられる気がしていた。
 ちょっとの気圧の変化にも敏感な玲が、長距離の移動が出来るかどうかも、疑問だった。

 「だめだ」

 熊さんが短く、しかし強く言い放った。
熊さんが玲の身体を物凄く心配している事は、玲だってわかっているはずだ。
だから、折末さんにデッサンを習いに東京へこないかと誘われた時、玲はすぐに断った。

 本当は行きたかったんだろうが、出来ない事を諦めていくのは慣れていたんだろう。
 けれど今回は、玲も諦めきれなかったのか、
玲から強い意思を感じる。

 イゾンもカブさんも、ただ二人の会話の行方を眺めていた。
お互いの気持ちがわかるからこそ、何も言えないようだった。

 「クマ、私は行くよ。クマに反対されても、絶対に行く」

 玲が熊さんの顔を見つめながら言う。

 「お前、自分の身体の事わかってるだろう。
東京なんて辿り着く前に船の中で死ぬかもしれないんだぞ」

 熊さんの言葉に、そこにいた全員が凍りつく。
悲しいけれど、その可能性だって充分ある。
命をかけてまで、東京へ行かなきゃいけないのだろうか?