最初の頃に比べたら、考えられないような大きな舞台に立つ事が出来ても、俺達はメジャーデビューのきっかけを作る事ができなかった。
 声をかけられた、レコード会社に曲を作って持っていったり、オーディションに参加したりと、ありとあらゆる手を使っても、何処からもデビューさせてもらえなかった。



気づけば、五年の月日が経っていた。



 インディーズでは、それなりにファンもついた。
しかし、後一歩の所でチャンスを掴む事ができない、歯がゆい気持ちだった。
いくら、インディーズで人気が出たからと言って、デビューしなきゃ何の意味もない。それじゃあただの趣味と一緒だ。

 プロとアマの差は果てしなくでかい。

 自分の何がそんなにダメなのか、俺は全くわからなかった。
確かに良い歌を作っている、そんな自負が自分にはあった。
 けれど、事務所の人間に言われるのは『この曲じゃ売れない』の一辺倒だった。
 俺につまらない、そこら辺の街中に溢れている様な大衆ソングを書けと言ってるのか。
 そんな物を俺は書くつもりはなかった。俺は、俺唯一の歌で勝負したい。

 枠の中に収まるような、そんな小さな歌でデビューなどしたくはなかった。
けれどバンドのメンバーの意見は、俺とは違ったようだ。

 俺はいつもの、地下のライブハウスに俺は入って行く。

 中に入ると、ベースの光輝《こおき》がカウンターで一人、酒を飲んでいた。
俺はもうすぐ練習時間なのに、誰もまだ来ていない事や、光輝が練習前から酒を飲んでいる事に怒りがわいてきた。

 「他のやつらは?」

俺が聞くと、光輝がヘラヘラ笑いながら俺に言う。

「辞めたよ。みんな」


、、、は?


 俺は、光輝の言葉を疑った。


「何、間抜けな顔してんだよ。お前、何にも気づいてなかったんだな」


 光輝がまたロックグラスを手に持って、酒を喉に流し込む。


「あいつら、他のバンドに引き抜かれて、違うバンドでメジャーデビュー決まったぞ」

 俺はそれを聞いた瞬間に、何とも言えない、嫌な苦味が身体中に広がって行くのを感じた。


「は?何言ってんだよ……。何だよそれ」


 言いようのない怒りがどんどん身体の底から湧いてくる。
それがドス黒い感情となって、今か今かと溢れ出るのを待っている。

 「お前さ、本気で思ってんの?お前のやり方でデビュー出来るとか。ずっと皆んな言ってたよ。『もうあいつとやってくのは限界だ』って」

 そう言われた瞬間に、身体中の血液が一気に逆上していくような気がした。
そして反射的に俺は、光輝に殴りかかっていた。
鈍い音がして、光輝は椅子から床に転がり落ちた。
 光輝は、やり返す事もせずに床に寝っ転がったまま、こっちを見てまた笑っていた。

 「そうやって、頭に血が昇ったら直ぐに殴る。
力でねじ伏せてお前は何がしたいの?
お前が思ってる程、お前なんて何の才能もねーよ。お前は、天才なんかじゃない。凡人だ。いい加減に気づけよ」

 俺は、自分の足元がぐらぐらと崩れ落ちていくのを感じた。

 自分でも気づいていた、、、。

どんなに頑張っても、あと一歩の所で認めてもらえない。


俺には、秀でる音楽の才能がない………。


 それに気づきたくなかったから、周りのせいにしていた。
結局俺はここでもはみ出たまんま、俺の前から人がいなくなる。

 何の為にこの五年間俺は頑張ってきたんだ。

完全にルートは外れている。

もう修正もきかないほどに、、、。