俺は、それから毎日毎日ギターを弾いた。
今まで弾けなかった分を取り戻すかのようにギターを弾いては曲を作った。
 頭の中に絶えずずっと音楽が流れているような気がした。

 「シンジー、、、」

 俺が浜辺でギターを弾いていると、気がつくと玲が隣にいて俺に呼びかけている。

 「どうした?」

 俺は手を止めて玲の方を向いた。

 「シンジ!ずーっと話しかけてるんだけど!
っていうか、最近ギターばっかりで私の事忘れてない?私の事っていうか、ギターの事以外全て頭から排除されていない?」

玲が甘いアイスコーヒーを飲みながら怖い顔をして怒っている。

 「忘れてねーよ。むしろ玲がいるからギター弾けるようになったんだろうが」

「そうなの?私のおかげ?」

「当たり前だろ。絵を描く玲を見て、またギターが弾きたくなったんだから。お前がいなきゃ弾けてねーよ」

俺の一言で、玲はすぐに嬉しそうな顔になって、俺の首に抱きついてくる。

 「シンジ、何か弾いてみてよ、私歌うから」

 また玲が突拍子もない事を言ってくる。

 「え?歌えるの?玲、日本の歌なんて知らないだろ?」

 「いいんですよ。歌詞なんて、心で歌うから」

 玲がそう言うので、俺が適当に即興でギターを弾くと、玲がわけのわからない英語のような、鼻歌のような歌を歌い出す。
 玲の歌はめちゃくちゃだけど、何故か耳障りがよくて、いつまでも聞いていたい気分になった。  
 しばらくそんな事をしながら、玲と二人で遊んでいると、玲が海を見つめて俺の肩に頭を乗せてきた。
 玲程に、人に甘える事が上手な人間もいないと思った。俺は玲の一挙手一投足にいちいち翻弄されて、胸が苦しくなった。

 「シンジ、楽しいね。私いつまでも、シンジとこうしていたいよ」

 玲が海に溶けていく夕日を眺めながら俺に言う。今日も一日が終わる。
 あっと言う間に時間は流れて過ぎて行く。
辛い時間も楽しい時間も、平等に時は経っていく。
 玲の言う通り、俺もずっと玲とこうしていたかった。

 こんなにも、満ち足りた時間を過ごしたのは生きてきて初めてだった。
だからこそ、未来の事を考えると不安になった。

 俺はこのまま逃げ続けて、小峯 真司とは別人になって生きていくのか。

 それとも───、、、

「シンジ、私夕暮れが一番嫌いだよ」

 玲が突然そんな事を言ってくる。

 「なんで?」

 「なんか悲しいじゃん。今日も一日が終わっちゃうんだって、悲しくなる」

 俺はギターを置いて玲を抱き寄せた。
玲の言いたい事がなんとなくわかったからだ。

 「、、、今日も一日楽しかったか?」

俺が聞くと玲が楽しそうな顔で笑った。

 「楽しかった!一日の終わりに振り返るの、
今日あった事を思い出して『今日一日、めいいっぱい、楽しむ事ができましたか?』って。
 良い日ばかりじゃないけれど、へこんでる暇なんてないよ。
 時間がないもん!だったら楽しい事に時間を使いたい」

 玲はいつでもキラキラしている。
彼女の人生を大切に、一生懸命に生きたいという思いがうちから溢れ出て、彼女を輝かせているみたいだった。

 「じゃあ、二人で嫌って程楽しい事しようか」

 「うん!私はシンジといると凄く幸せだよ」

俺は玲の小さな身体を抱きしめる。ただ、玲が愛しくて仕方なかった。
今にも消えてしまいそうなその華奢な身体をどうしたら守る事が出来るのか。俺はずっと考えていた。
 何も持っていない、底辺の俺に一体玲に何ができるんだろうか。
 歯痒さに胸が苦しくなる。自分以外にこんなに大切だと思える人に出会ったのは初めてだった。