「皆んな、そんな気持ちは少なからずあるんじゃないの?恋に恋する的な?それもそれで良いじゃん」

 玲が難しそうな顔をして、俺を見てくる。
怒っているんだか、悲しいんだか、呆れているんだか、諦めているんだかよくわからない顔だった。

 「今日、律に胸を見られたの」

 俺は、玲の唐突の告白に驚く。そして少なからず、ショックを受けた。
恋人同士なら、まぁ当たり前の事だ。玲だって、もう大人だ、幼稚園児のような恋愛をするわけじゃないだろう。

 けれど、俺は一瞬頭が真っ白になった。

 「私の胸にさ、沢山手術のあとがあるの。
小さい頃に何回も心臓の手術を受けたから。
今なら、綺麗に傷を消す事もできるらしいんだけど、私あえてしないの」

「………なんで?」

「だって、私が戦ってきた証だから。消したくないの。こんなに切り刻まれても生きてるなんて、ちょっとカッコよくない?マンガのヒーローみたいで」

 玲は笑いながら俺に言う。けれど俺は少しも笑えなかった。

 「律がさ、この胸の傷を見たらドン引きしちゃったの。
 そりゃ、そうだよね。びっくりするよね。前情報で話しておかなかった私が悪いんだけど『ちょっと無理』って言われてさ、逃げて行っちゃった」

 玲はまた寂しそうに笑う。海風で、玲のスカートがひらひらと揺れる。
 その揺れるスカートの下に細くて真っ白な玲の足が見える。

 「でもさ、逃げる事なくない?デートの途中だよ?なんか、一人残されてめちゃくちゃ、惨めだったよ。
 自分でもわかってるよ、気持ち悪いなって。じゃあ消せばいいじゃん?って話しだけどさ、それもなんか違うなって思って嫌なの、、、。本当に私は、、、私が一番面倒くさい」

玲の目に涙が溢れてきた。俺は泣く女が大嫌いだった。泣かれると、責め立てられている様で、不快だった。それ以上話しあいが出来なくなるのも嫌だった。
けれど、玲の涙を見て俺は今まで自分の中で感じた事のないような気持ちになった。
玲を泣かした律を許せない気持ちと、玲の苦しみが自分にも伝染したように苦しくなった。

これ以上玲を悲しませたくはない───
玲に辛い思いをして欲しくない、笑っていて欲しい。

 俺は咄嗟に、横から玲の身体を抱き寄せて、抱きしめた。そして、玲の耳元で囁いた。

「そんなだっせぇ彼氏捨てて、俺にしろよ」