シンジとカブさんは、もう一件飲んでから帰ると言うので、俺は一人ブラブラとホテルへ向かって帰っていた。
海岸通りを、ポツポツとある街頭を頼りに歩いていく。

 夜の海が広がり、波の音だけが大きく聞こえる。
少し湿った海風を感じながら気持ちよく歩いていると、海岸のコンクリートに玲が座っているのが見えた。
昼間に会った時と同じ様に、花柄のワンピースを着て、何も見えない海を一人で眺めていた。

 「玲?何してんだよ」

 俺が呼びかけると、玲は驚いた顔をしてこっちを見た。

「シンジ、こんな所で何やってんの?」

「イゾンとカブさんと飲みに行ってた。新しい店がオープンしたんだよ」

 俺はそう言いながら、玲の隣に座る。

「三人はすっかり、仲良しだね。私よりこの島の事詳しくなったんじゃない?」

 玲がそう言って少し笑ったが、いつもより元気がないように見えた。

 「仲良しね〜。ただ飲みたいだけな気もするけど、特にカブさんは」

 「確かにそうかもね」

 玲が笑顔から一瞬で暗い表情へと変わった。
俺は律が日本に帰ってしまうのが、寂しいのかと思った。

 「暗い顔してどうしたんだよ。デートは楽しくなかったのか?」

 「楽しかったよ。私がやって見たかった事だった。誰かを好きになって、付き合ってデートして。でも、こんなものかと思った」

 玲の顔が街灯に照らされて、オレンジ色に見える。
玲の目は真っ直ぐと暗い海を見つめていた。
波飛沫の白だけが、暗い海の中で浮かんで消える。

 「どんなものだよ。かなり浮かれて嬉しそうにしてたじゃん」

 「確かに、でもそれって律の事が好きだから、浮かれてるっていうか、やっと恋愛をできた自分に浮かれてるって感じだったのかな」

 玲は自分の身体がいつどうなるかわからないから、早く自分がして見たい事をしたかったんだろう。
 恋愛もきっとその一つだったはずだ。