「新しい店?」

 俺がイゾンに聞き返すと、カブさんも話しに入ってくる。

 「それって新しく出来たバーみたいな店ですか?なんでも、生演奏を聴きながら、飲める店って聞きましたよ!」

 「へぇ、いいな。行ってみるか?」

 俺がそう言うと、カブさんが起き上がる。

「是非、私もご一緒させて下さい!」

「………カブさん、腰もう良さそうですね」

 俺達三人は、夕方になると早速新しく出来たバーに行く事にした。
島の中でも、中心街にできたそのバーは、黒で統一され、中にはちゃんとした舞台があり、ドラムセットが置かれていた。

 「ジャズバー見たいのを想像してましたけど、スタジオみたいですね。
ライブを見ながら、お酒が飲めるって感じかな?」

 丸テーブルの椅子に座りながら、カブさんが言う。

「確かに、バンド演奏って感じですね」

 イゾンも言っている。とりあえず、俺達はビールを頼んで乾杯した。
ビールを運んできた、若い金髪の男が話しかけてくる。

 『今日は三組のバンドが演奏するから、盛り上がっていってね!』

 日本人じゃなかったので英語だった。俺の母親は、日本語より英語が得意だったので、日常会話の英語くらいは話せた。

 「楽しみですね〜!」

 イゾンがワクワクしている。
俺も久しぶりの、スタジオの雰囲気に懐かしさもあり、テンションが上がってきた。
オープンしたてという事もあり、お店は満員だった。

 そして一組目のバンドが入ってきた。
オヤジバンド見たいのが、やってくるのかと思ったら、まだ二十代くらいの若いバンドだった。
ドラムの音から演奏が始まる。
そこから、ベース、ギターと音を奏でる。

 俺の中の血液が一瞬で、沸騰するように熱くなった。
地面が音で揺れて、大きな歓声があがる。
俺がずっと渇望していた音楽だった。
俺は興奮と懐かしさでいっぱいになった。
 テクニックがあるわけじゃない。
けれど、全力で音楽を楽しんでいる。
そんな演奏だった。

 俺は初めて綾さんに、ギターを習った時のような、わくわくした気持ちでバンドの演奏を聞いていた。