(嘘だろ……)

俺は何故かもの凄いショックをうけた。玲が死ぬかもしれないなんて、、、。
 あんなに絵の才能に恵まれて、世の中にいつ認められてもおかしくないのに。

 どうして、そんな奴が死ななければいけない?

 「玲は、弱っている自分を人に見られたくないんだよ。いつも、元気で明るい自分でいる事が夢なんだ……。
 だから、今はそっとしてやってくれ。
元気になれば、またあいつは自分から出てくるから」

 律はショックを受けていた様だった。
けれど、事情を知れば無理に会おうとは、思わなかったらしく、花束を置いて外へ出ていってしまった。
イゾンは相当ショックだったのか、机に突っ伏して泣いていた。

 「皆んなに、心配かけて悪いな。でも、俺にも安易な事は言えないんだ。玲がいつどうかなるかはわからない」

 俺は、玲の描く絵を思い出していた、大胆で迷いなく、自分の心に忠実に描いていた。
その中には、自分の心の葛藤や上手く動かない身体への憎しみみたいな物が描かれていたのかもしれない。

 巨大なキャンパスに描かれていた夜の絵は、自分がいつ死ぬかわからない、恐怖や苦しみ、その中で自分なりに希望を見出そうとする、光に見えた気がした。

 『訴える物が強ければ強いほど、心を打つ』

 折末さんが言っていたが、玲が訴えかけていたのはこれだったんだ…………。
 俺なんかには到底わかるはずもないような思いをかかえて、玲は絵を描いていたんだ。

 "才能"なんて、一言で片付けてはいけない程に、まさに玲は命をかけていた。

 それからも、しばらくの間玲はずっと部屋で休んでいた。
 玲のいないホテルは、明るい色を失ったパレットの様だった。静かで、何処か皆んなも落ち込んでいた。

 玲の存在の大きさを、俺は初めて知ったような気がした。