律は、ホテルに入るなり熊さんに言った。

 「玲さんのお見舞いに来ました。会わせてもらえますか?」

 ロビーには、俺とイゾンがいた。俺達はつい、二人の様子を眺めていた。
律は、小さな花束を持っていた。きっと、玲に渡す為の物だろう。

 俺が思っていたよりも、律は玲に対して真剣に付き合っているのかもしれないと思った。
じゃなきゃ、旅先で知り合った女のお見舞いに、わざわざこないだろう。

 「お願いします」

 律が熊さんに頭を下げるが、熊さんは首を振った。

 「玲は誰にも、お見舞いにきて欲しくないと言ってるんだ」

 熊さんが静かに答えた。
けれど、律は納得していない様子だった。

 「でも、こんなに長い間体調が悪いなんて心配です。せめて顔だけ見せて下さい」

 そう言っても、熊さんは首を振りダメだと告げる。

 「じゃあ、せめて病気の名前だけでも教えて下さい!」

 律が食い下がる。俺とイゾンは完全に二人が気になっていたので、熊さんの顔を見る。
熊さんは悩んでいたが、俺達皆んなの心配している様子を見て、ゆっくりと話しだした。

 「別に内緒にするつもりはないんだ。
知られたからといって、どうって事はない」

 「玲さんは、何か重い病気なんですか……?」

 イゾンが尋ねると、熊さんは頷いた。


「玲は生まれつき、心臓の病気を抱えているんだ」


「その後、重度の喘息にもなって、赤ん坊の頃から手術をしたり、入院を繰り返していたんだ」

正直俺は驚いた、玲が生まれつきそんな病気だと思わなかった。
玲は誰よりも、元気過ぎる程元気だったし、具合が悪そうな所なんて見た事もなかったからだ。

 「とにかく、安静に。心臓に負担をかけたらいけないと言われていたよ。何度も発作を繰り返して、次は死ぬんじゃないかと、毎回思いながらここまできたんだ」

 熊さんが一人でそんな思いを抱えて、怜をこの島で育ててきたなんて知らなかった。

 「特に小さい頃は、少しの事で風邪をひいては、発作を起こして、生きた心地がしなかった。
空気や気圧の変化に敏感で、ちょっとした事が引き金となってすぐ発作になる。
 だから、俺はこの島へ来る事にしたんだ。
空気が綺麗で、雨が少なく天候が安定している。玲にとって、こんなに良い環境はないと思ったよ」

 それは、そうかもしれない。
車も殆ど走っていないから、空気も綺麗だし。新鮮な野菜も手に入る。雨もそんなに降らない、喘息の患者には良い療養所だ。
 だから、折末さんが東京へ来いと行った時に反対したのか……こんな綺麗な所から、東京なんかへ行ったら、高確率で発作が出るだろう。

 「毎回、喘息の発作が出ると、心臓に負担がかかるから、次に発作が出たら命はないと言われているんだ」