夜になって、部屋の窓を開けると海岸に何かが見えた。
暗くてよく見えなかったが、目を凝らすと砂浜に玲が寝そべっていた。
俺はホテルを出て、海岸にいる玲の隣へ行った。

 「何してんだよ」

 「何してる様に見える?」

 「振られて、ふて寝してる?」

俺がそう言うと、玲が寝ながら俺を睨んでくる。

 「振られてません。完璧なデートでした」

 「じゃあ、なんでこんな所で寝っ転がってんだよ」

 「……シンジ、私は初めての恋愛に絶望を感じているんだよ……」

 「何でだよ?今日楽しくなかったのかよ?」

玲は砂浜に寝転びながら、手で自分の顔を覆う。

 「楽しかったのか……わからない。
とりあえず疲れた。何するのも緊張するし、ご飯は食べれないし、何話せばいいかもわからないし。一日中心臓がドキドキして、もうもたない。恋愛ってこんなにだるいもんなの?」

「だるいって。好きだからしょうがないんじゃないの?」

 玲がいきなり手で砂浜をバンっと叩く。

 「シンジも寝っ転がってみな?」

 俺は玲に言われた通り、玲の隣で横になる。
砂浜に横になって空を見ると、空には今にも落ちてきそうな程の星があった。

「すげ───。こんな沢山の星初めてみたなぁ」

「普通だけどね。東京で星はあんまり見れないらしいね、昔リョウが島に来た時に言ってた。島だと虫みたいにうじゃうじゃ見えるのにね」

「虫って……言い方な、もっと綺麗な表現の仕方しろよ」

 玲がいきなり、隣で笑い出す。

 「シンジとなら全然緊張しないで、気楽に話せるのにね。なんで律とだとだめなんだろう」

 「好きな相手の前だと皆んなそうなるだろ、普通だよ。それくらいよく見られたいって事だろ」

 「そうなんだよ。私ってなんか変じゃん?
こんな島でクマに育てられたって言うのもあるけどさ、ちょっと普通の女の子と違うと思うんだよ。だから素を見せたら嫌われる気がするから、一生懸命に取り繕ってる感じ。
 でもはたして、それで好きになってもらっても、それは意味があるのかという問題」

 玲が一人でごたごた言っている。

「俺は素の玲の方が、普通の女より魅力的だと思うけど?面白いじゃん」

「本当に!?本当に私、超魅力的?好きになっちゃうくらい!?」

 玲が砂浜から起き上がって俺の顔を見ながら言う。

「そこまでは言ってないけどな」

「でもさ、シンジ言ったじゃん!変な服は着ていくなとかさぁ、やっぱり素じゃだめだって事じゃん」

「あのレゲエみたいな服はダメだろ。全くそそられないわ」

「えーだめ?可愛いんだけどなぁ」

「まあ、俺の趣味だから律はどうだかしらねーよ。まあ、落ち込んでないでアイスでも食べに行こうぜ」

 俺の言葉に、玲が喜んで手を挙げる。

「行く行く!お腹すいたー!ラーメン食べに行こう!」

「ラーメン屋なんてあんの?」

「あるある!行こう!」

 俺達はその後、ラーメン屋とアイス屋に行った。
玲は緊張が解けたのか、島唯一のラーメン屋で、美味しそうにラーメンを食べていた。
今日一日、ちゃんとご飯を食べれてなかったからだろう。

 帰り道風が急に強くなってきた。
その夜から、島の天気が荒れ出して強風と雨が降り出した。

 島では珍しい、
日本で言う、台風ってやつだ………。