「初じゃねーだろ。俺はこの窓から、お前とサーファーが海岸でイチャイチャしてるの何回か見たぞ」

 「違うんだって!あれはただの散歩なの!
夕方涼しくなったらちょっと会いませんか的な
感じで会ってたんだけど、今度は朝からちゃんとしたデートをするの!!二人で水族館へ行って、ランチして、またブラブラして、ディーナー行ってっていう、正真正銘のデートなの!!」

 俺は玲の迫力に思わず圧倒される。

 「……おう。凄いな。頑張れ」

 「頑張れじゃないよ!どうしたらいい?何着たらいい?髪の色やっぱりシルバーじゃなかった方がいいかな!?どうしよう時間ない!何話そう!何食べよう!」

 玲が一人で取り乱して慌てていた。

「落ち着け。なんでお前は全部自分発信なんだよ。そんなの相手にまかせとけ。あのサーファーかなりモテそうだし、今までの経験だって豊富だろきっと。お前があたふたしてる間に引っ張ってくれんだろ」

 俺がそう言って、また読みかけの本を開くと、玲がベッドに上がってきて、俺の隣りにきて言う。

 「ねえ、本当にそうかな?そう思う?
何もしなかったら、つまんない女と思われて振られるって事ないかな。私なんて喋らなかったら、本当にただのつまんない女に成り下がるよ!」

 「つまらないくらいの方が良いんだよ。
にこにこして、適当に相槌うって『凄いねー』とか言ってたらそれで相手は喜ぶんだよ」

 「何それ?本当にそれだけでいいの?
逆立ちしたり、コーラ一気飲みしたりしなくていいの!?」

 「いいんです!!しなくていいんです!!
出過ぎた真似はせずに、相手の流れに身をまかせましょう」

 「わかった!そうする!じゃあ洋服は?何がいいかな?やっぱりスカート?動きやすいようにパンツ?」

 「なんでもいいんじゃないの?………変なカラフルな服だけは辞めとけ」

 玲はたまに、レゲエミュージシャンみたいな、カラフルなヘンテコな格好をしている時があるのだ。
絶対に男うけはしないであろう格好だ。
まあ、あの律って男の趣味は全然知らないけど。

 「シンジお願い!今日は一日中ホテルにいてよ!」

 「は?なんで。」

 「何かあった時直ぐに連絡したいから!だってシンジ携帯持ってないじゃん?」

 そうだ。俺は逃亡する時、携帯を日本に捨ててきたのだ。

 「ホテルの電話にかけるから、必ずでてね!
約束だからね!じゃあね!」

 良いとも言ってないのに、玲はあっという間に部屋を出ていってしまった。
つくづく本当に手のかかる女だと思った。