夕暮れの海岸、日が沈み始め、辺りをゆっくり赤色に染めていく頃、二人は海岸を散歩していた。

 玲は裸足になって海へ入り、少しはしゃいで律と手を繋いでいた。
玲の表情が、遠目からでもキラキラ輝いているのがわかる気がした。
 俺は二人が一枚の絵のように見えて、ホテルの窓からその綺麗な絵を眺めていた。

 二人がちゃんと付き合ったとか、そんな事はよくわからなかった。
玲自身もわかっていないみたいだった。
 ただ、律が日本に帰るのを少し伸ばして、この島に滞在する事にしたのは、律が少なからず玲に好意を持っているからだろう。

 玲は生まれて初めての恋愛に、どうしたらいいのかわからないらしく、俺にいちいち助言を求めた。
 けれど、俺自身も助言を求められた所で、大したアドバイスも出来るはずがなかった。
 恋愛には正解がないし、俺は誰かを本気で好きになった事がなかったからだ。

 玲は、相変わらず折末さんからのデッサンの指導も続いていた。折末さんは、日本での仕事がたまっていたので、しばらくすると日本へ帰っていった。

 その際、玲の絵を一枚持っていき「預からせて下さい」と頭を下げた。


 「シンジ!シンジ!」

 玲が勢いよく俺の部屋に入ってくる。
俺は読みかけの本をテーブルに置いて、玲の方を見る。
 カブさんは、大量の本をホテルへ持って来ていて、ホテルの部屋が本だらけだった。

 その中の本を借りて読むのが、俺の最近の楽しみだった。
読み終わった本の感想をカブさんと話すのも楽しみの一つだった。
 正直、今まで本なんてちゃんと読んだ事はなかったけれど、読みだすと面白くて止まらなかった。
 本を読むと、俺はつくづく偏った世界の中でしか生きてこなかったのだと実感する。

 「シンジ!」

 俺がぼーっとしていると、また玲が俺を呼んでくる。

 「なんだようるせーな」

 俺がそう言いながら、玲を見るとまた、頭の色がシルバーに変わっていた。

「お前髪の毛よく死なないな。相当毛根強いんだな」

「ああ、これブリーチにカラーシャンプーで色入れてるだけだから、髪痛まないんだよ」

「へえーいいな。俺も久しぶりに髪に色入れようかな」

「いいじゃん!私がやってあげるよ!何色にする?」

「えー、、、なんかお前にやらせるの怖いなあ。変な色にされそうだし。この島、美容院ないのかよ」

「あるけど、カラーとかおしゃれなのはないよ、、、じゃなくて!シンジ!聞いてよ!
今日はついに初デートだよ!!」

 玲が大きな目を更に大きくして言ってくる。