その後、打ち上げではカラオケ大会が始まった。イゾンがやけ酒を煽ったその勢いで、いきなり大勢の前で歌い出した。
つい最近まで部屋に引き篭もって、トイレ以外は出てこなかったやつとは思えない。

 イゾンは日本の有名なアニソンをノリノリで歌い出し、アニメは全国共通で人気があるのか、会場は一気に盛り上がった。
 俺はその光景を見ながら、信じられない気持ちでいっぱいになった。
 人間は短期間で、こんなに変わる事ができるのだろうか?
それともイゾンの本来の姿がこちらなのか、俺には検討もつかなかった。

 いつのまにか、俺の隣に玲が来て興奮したように話し出す。

 「ねえ!イゾン君凄いね!こんな大勢の前に出て歌いだして!しかも歌上手いよね?
声も良いし!私びっくりを通りこして感動してるよ」

 俺も、玲と全く同じ事を思っていた。 
小さな島の地面を揺らすような大きな歓声を聞きながら俺は何処か懐かしい気持ちになっていた。

 「イゾンは、凄いな。自分が変わっていく事にためらわないんだな」

 「シンジも変われるよ」

 「えっ?」

 俺は玲の顔を見る。いつも化粧っけのない玲が、今日はきちんと化粧をしていて、大人びて見えた。

 「シンジ、ギター上手いって綾から聞いてた。
でも辞めちゃったって」

 「上手いって言っても俺くらいの奴はいっぱいいるんだよ、俺は玲みたく才能ないから辞めた」

 俺の言葉に、玲が不思議そうな顔をして聞いてくる。

 「才能がないとギター弾いちゃダメなの?
クマは別に才能はないけど、楽しくギターを弾いてるよ?私はクマの弾くギターが小さい時から大好きだった。シンジはギターが好きじゃないの?」

 シンプルな質問程、答え難い事は沢山ある。
「好き」だからと言うだけで簡単に弾ける程、俺にとってギターは気軽な物では無くなってしまっていた。
 ギターは、俺にとって飯の種子、世間からはみ出た俺がのし上がる、唯一の道具だと思っていた。

 だから、それが叶わないのならば、もう触りたくもない。

 俺はギターから逃げたのだ、ただそれだけだ、、、。