打ち上げには、島の人間も多数参加していた。
夜の海の浜辺にライトを照らし、音楽を爆音で流している。テーブルに色とりどりのオードブルが並び、バーカウンターまで用意されてあった。
 皆んな各々に、酒を飲み楽しんでいる様子だった。

 「ねえ、シンジ、律と何を話したらいいと思う?」

 玲が緊張した顔をして、俺に向かって聞いてくる。

 「さあ?なんでもいいんじゃないの?」

 「そんなやる気のない返答ってないでしょ。
これが、最初で最後かもしれないんだよ。絶対に上手くいって、彼氏になって欲しい!」

 玲は大袈裟だ。まだ若いのに何をそんなに生き急いでいるのかわからなかった。

 「玲さん、今日物凄く可愛いですね。その、白いワンピース似合ってますよ!」

 イゾンが玲を褒めると、玲は少し自信になったのか喜んでいた。確かにイゾンの言う通り、白いワンピースを着て、髪の毛を下ろして大人しくしていると、玲はちょっといい所のお嬢さんに見えなくもない。

 「じゃあ、とりあえず、あんまりしゃべらないで聞き役に徹したら?相手に気持ちよく喋らせたら成功だ。」

 俺がホスト仕込みのアドバイスをすると、玲は納得したように感心していた。

 「玲ちゃん!」

 そこへお待ちかねの律がやってくる。
また芸能人顔負けの爽やかな顔と雰囲気で颯爽と近づいてくる。
 二人は何やら笑いながら、何処かの席へ消えていった。

 「玲さん、あんな男の何処が気に入ったんだろう。冗談じゃなく、目がハートになってましたよね」

 残された、俺とイゾンは二人で席に座りながらビールで乾杯をした。

 「なんで?普通にかっこいいだろ、モテるタイプだと思うけど。玲は、誰と恋愛すると言うより、恋愛がしたいんじゃないの?お前振られたんだろ?諦めろよ」

 「じゃあ、シンジさんも諦めるんですか?」

 「俺は別に玲の事なんて、なんとも思ってないから、どうでもいいよ」

 玲と律が二人で楽しそうに、ご飯を食べている。玲は、俺達といる時とは別人のようにただの恋する若い女になっていた。
 それは、一心不乱に絵を描く玲とは全く別人のかけ離れた人間だった。

 玲は歪だ。
その歪さが、絵に現れて独特の魅力となっているのかもしれない。完璧じゃないから、美しい。
 俺がバンドに求めていたのは、完璧だった。
完璧な音、完璧な演奏、完璧な曲。
 完璧を追い求めていけば行く程、ただの平凡な音楽になっていたのかもしれない。

 おそらく、初めての恋愛をして少し頬を赤らめている玲を見て、俺は美しいと思った。