玲も熊さんも、折末さんの言葉に驚いていたようだった。俺は逆に俺は興奮した。

 「世界にって………凄いじゃねーか!玲!
お前の才能が認められたって事だぞ!」

 しかし、俺の興奮に反して玲も熊さんも何故か黙っていた。
画家の卵として、こんなに喜ばしい事はないだろう。
 自分の絵が認められたのだ、しかもプロに才能があると言われたのだ。
普通なら喉から手が出る程欲しい言葉のはずだ。

 「具体的に、これから何をすればいいんですか?」

 熊さんがいつもと同じ、落ちついたトーンで尋ねる。

 「とりあえず、東京へ来て本格的にデッサンを習いましょう。それだけで、ぐんっと更に良い絵が描けるようになると思います。そしてニ〜三枚描いてみて、良いと思えば画廊に置いてみます。また、足がかり的にコンクールに出してみても良いでしょう」

 才能がある奴は、自分から売り込みにいかなくても、こうやってプロから寄ってくるもんなんだと、自分と重なり少し胸の奥が痛くなった。

 「玲、東京に行ってこいよ!チャンスじゃん!」

 俺がそう声をかけても、玲はちっとも嬉しそうな顔をせず、他人事のように無表情だった。
それまで黙っていた熊さんが口を開く。

 「申し訳ないですが、、、玲がこの島から出る事はありません。絵はこの子の趣味です。
画家になる事が目的で描いてはいませんから、お断りさせて下さい」

───えっ、、、?

 なんで?こんなチャンス二度とないかもしれないのに、断る奴がいるのか?
俺からしてみれば、頭がおかしいとしか思えなかった。
 折末さんも、驚いた表情をしている。
まさか、断られると思っていなかったのだろう。

 「ちょっと、、、熊さん!本当に良いんですか!?よく考えて、、、」

つい俺が、熊さんにくってかかると、玲が口を挟む。

 「いいの!別に私はただ自由にここで絵を描きたいだけ。それだけだから、、、折末さん、せっかく遠くまでお越しいただいたのに、申し訳ありません」

 そう言って玲が頭を下げると、ロビーが静まり返った。
俺は、他人の事なのに柄にもなく腹がたって仕方がなかった。
 単純に玲の絵のファンだからと言う事もあるが、玲と自分を、重ね合わせていたのかもしれない。
 こんな大きなチャンスを自ら逃す、玲が信じられなかった。