「おばけーーーーーー!!!!」

玲が叫ぶと、イゾンがまた俺に抱きついてくる。

 「助けてーーー!!殺されるーーーー!!」

 俺は、イゾンに拘束されて、身動きできないでいると、カブさんが腰が抜けたように、その場にへたりこんでいた。
熊さんはすぐに後ろを振り向き、人影にライトを当てる。

 「………あんた……誰だ?」

 熊さんが、ライトを当てた人物に尋ねる。
その人物は、皆んなの悲鳴に驚いたのか、腰を抜かして床に座っていた。
 俺は、抱きついていたイゾンを突き放し、熊さんの方へ行く。

 イゾンは小さく「ぎゃんっ」と言って床に倒れこんだ。

 熊さんがライトを照らしている方を見ると、白雪姫に出てきそうな小人のように小さいお爺さんが床に転がっていた。
 玲が、俺の肩から覗きこんで、そのお爺さんを見る。

「何?……妖精?」

「いや、普通に人間だろ」

 そのお爺さんは「イタタタッ」と言いながら、起き上がる。
頭は真っ白で、スラックスを履いて、ワイシャツにベスト、蝶ネクタイまでして、南の島に似合わない風貌だ。見た感じは日本人っぽい。

 「驚かしてすみません。私画商をやっております。折末《おりまつ》 卓郎《たくろう》と申します」

「画商………?」

 熊さんが呟く。
その時、停電が解消されて電気がついた。
皆んな、目をぱちくりと瞬きしている、暗闇になれてしまったから、明るさに慣れないのだろう。

 「今日、日本からこの島に着いたのはよかったんですが、道に迷ってしまいまして、気づいたらこんな時刻になってしまいました。
玄関でお呼びしたんですが、風が強かったので声が届かなかったらしく、中まで入ってきてしまいました。ご無礼お許し下さい」

 折末と名乗るその人は、深々とお辞儀をする。
気がつけば、カブさんもシンジも起き上がって目の前に突然現れた男を眺めている。

 「予約は、入ってないようですが、飛び込みですか?」

 熊さんが尋ねると、折末さんは言った。

 「私、小岩井《こいわい》 玲さんの絵を拝見したく、こちらに伺いました」