「なんだよ、塗装屋でも始めるのか?」

俺が聞くと玲が得意そうに言ってくる。

 「シンジ、ちょっと見る?」

 そう言って、漁港の並んでいる倉庫の建物の方へ行く。俺もその後に続いていくと、玲は倉庫のシャッターの前にいき、シャッターの下にレジャーシートを敷いてその上に道具を並べると、おもむろに、筆を手にとって、シャッターに絵の具を塗りだす。

 「お前!勝手にシャッターにそんな事していいのかよ!」

 俺が声をかけても、玲は全然聞こえてないようで、一心不乱に筆でシャッターに絵を描いていく。
さっきまでのいつもの様子と違い、急に玲の目つきが変わった。
 玲はいっさい躊躇いなく真っ直ぐに、そして大胆に線を描いていく。
 俺は何故かそんな玲の姿に釘付けになって目が離せなくなった。
 玲の小さな身体から、物凄いパワーと気迫を感じる。

 その姿は、鬼気迫るものがあった。
まるで頭の中に完璧な完成図があるかのように、玲は物凄いスピードで絵を描いていく。

 俺は今まで、絵という物に全く興味がなかったので、玲が描く絵が上手なのか、下手なのかということは、よくわからなかったが、玲の描く絵は迫力と、美しさ、激しさや、切なさなど、人を惹きつける魅力があった。

 俺はただひたすら、玲の描く海と魚の絵を夢中になって眺めていた。
自分の胸が高鳴っているのがわかる、腕には鳥肌が立ちっぱなしだった。
 こんな経験をしたのは、生まれて初めてかもしれない。

 俺は結局完成まで見いってしまっていた。
才能があると言うのは、こういう事を言うのかもしれない。
誰かの心を惹きつけて決してはなさい。
出来上がった、シャッターアートを眺めて、玲は息を上げ、汗をかいていた。

 「シンジ!どう?」

 玲はそう言いながら、俺の方を振り向く。
俺はただただ、玲のその姿が眩しかった。

   『唯一無二』

 そんな言葉がしっくりくるくらい、玲は絵の才能に溢れていた。素人の俺にもわかるくらい、一瞬見ただけで俺は玲の絵の虜になってしまった。

 「お前、絵が描けるんだな?」

 「うん!私は物心ついた時からずっと絵を描いてるの、上手でしょ?自分で言うのも何だけど、絵の才能だけはあると思うんだ!」

 自分で何を言ってるんだと突っ込みたくなるが、そんな事言い返せないくらいに、玲の絵は素晴らしかった。

 「凄いな………今にも線が動き出しそうな、迫力のある絵を描くんだな……」

 俺が夢中になって、玲の描いたシャッターアートを見ていると、玲が俺に尋ねてくる。

「シンジは絵を見るのが好きなの?」

「いや、俺は絵は全然わからないけど、、、でも、玲の描く絵は一発で好きになった」

 俺の素直な気持ちだった。
何かの物凄い才能を持つ人間に会ったら、俺みたいな凡人はもう平伏すしかなかった。

「シンジ、私のアトリエに来る?」

 玲が俺にそう言った。