イゾン君はその後、なんとかスープだけは飲み干して部屋に戻っていった。
俺はまた、夕飯の魚を調達しろと玲に言われて、漁港に魚釣りにきた。
 今日は素潜りじゃなくて、釣竿を熊さんから借りてきた。
 この間の素潜りは、かなり無謀だったと思う。
その証拠に、今日は釣り始めてから短時間で魚が何匹か釣れた。

 今日も島の空は快晴。
雲一つない空に、鳥が気持ち良さそうに泳いでいる。
 少し風は強いが、この生ぬるい風が気持ち良かった。
 今が何時とか、今日が何日だとか時間の概念がこの島にはないみたいだった。

 この島の住人は何かを必死にこなす事や、他人と比べて何かに焦ったり、不安になったりする事がないように、ただ毎日を自然に任せて生きているように見えた。
 生まれた時から、競争する事を義務づけられて生きてきた俺には、全てが新鮮に映った。
俺は知らない間に、自分の世界を狭めて生きてきたのかもしれない。

 俺の知っている世界なんて、ほんの一部でしかなくて、もっと周りには色々な世界が広がっていたのかもしれない。
 そんな事を考えていると、後ろから「おーい!」と叫ぶ声が聞こえた。

 声を聞いただけで直ぐに玲とわかる。
振り返ると、玲が脚立や、なんだかわからない道具をリヤカーで引きながらこちらに来る。
 俺はその姿を見た瞬間、また面倒な事を頼まれるんじゃないかと思って嫌な予感がした。

 「シンジー!釣ってるねー!大漁じゃん!」
玲がそう言いながら、クーラーボックスの中身を見る。

 「なんだよ、その荷物……また俺に何かやらせる気かよ?」

 俺が思わず警戒して玲に聞く。
とにかく、玲は人使いが荒かった。

「ああ?これ?違う違う。これは私の仕事だよ」

 玲がそう言って、俺に大きなハケを見せてくる。