俺は急に後ろから抱きつかれて、驚いて声が出せなかった。

(えっ……?)

 しかし、俺はすぐに身の危険を感じて、俺を拘束している腕を振り払って、相手の腹に一発足蹴りを入れる。

「うっ…」

 小さいうめき声が聞こえ、部屋の床に若いひょろっとした男が、簡単に倒れこんだ。

「いきなり、何すんだよ!お前がイゾンか!?」

 俺がそう怒鳴りつけると、蹴られたお腹を抱え込み、苦しそうに顔を歪めながら頷いているので、この人物がイゾン君で間違いないようだ。
俺はイゾン君の所に近づいていって、話しかけた。

「何でいきなり、俺を羽交締めにしたんだよ。
俺の事知ってるのかよ?」

 俺がそう聞くと、なんとか痛みを堪えて、呼吸を整えたイゾン君が話し出す。

 「………あの……あなたは誰ですか…?」

「はぁ?このホテルの客だよ!客っていうか、バイトしてるっていうか。まあ、そんな感じだよ」

「そうだったんですね、、、ボク、勘違いしてあなたに抱きついちゃったみたいで、、、ごめんなさい」

 そう言いながら、イゾン君は起き上がる。
華奢な身体に、黒いTシャツ、黒いズボンを履いて、髪の毛はマッシュボブで、前髪が長く殆ど顔が見えない状態だった。

「勘違いって誰に抱き着こうとしてたんだよ」

 俺がそう聞くと、イゾン君はその場に体育座りをして黙り込む。
俺は、下を向いて怒られた子供みたいになっているイゾン君を見て、ピンときた。

「もしかしてお前、俺と玲を勘違いしたのか?
お前玲に抱きつこうとしたのかよ?」

 俺が聞くと、イゾン君は震えるように小さく頷いた。