玲の大きい茶色の瞳が俺の顔を見つめる。

(恋人…………?こいつの?)

 いや、顔だけみれば確かに可愛い顔をしているが、こんな女と絶対に付き合いたくはない。

 「無理」

俺がそう一言言い放つと、玲は怒った顔をした。

「なんでよ!私を振るの?何が不満なの?顔だってブサイクじゃないし、むしろ可愛いでしょ?年齢だって二十歳で若いし。いいじゃん。付き合ってくれても!」

 玲がそう言って俺に捲し立てる。

「いや俺、お前の事好きじゃないし。そもそも全然タイプじゃないし。それに逃亡してる身だし、恋愛とかするつもりないから。お前だって強盗犯と付き合いたくないだろ?」

俺がはっきり言うと、玲はさっきまで怒っていたのに、急に悲しそうな顔をする。

「まあ、それはそうか……」

「そうだろ。なんで彼氏がほしいんだよ。他にもいるだろ、若い男なんて。そっちをあたれよ」

「いないんだよ。ここ島だし。
私二十歳なのに、今まで誰とも付き合った事ないんだよ!どう思う?普通の若い子は恋愛を楽しんで、恋人同士で楽しく遊ぶんでしょ?そういう経験が私、一度もない」

 玲はそう言いながら、氷をストローでカラカラさせる。
一度も彼氏がいないのは意外だったが、顔とかの前に、こいつの場合性格の問題な気がする。

「順序が逆だろ。好きになって彼氏ができるんだろ?お前別に俺の事好きじゃないだろ」

「うん。好きじゃない。全然」

「だろ?誰か好きな奴できるまで待っとけよ」

 俺がそう言い捨てると、玲が食い下がってくる。

「時間がもったいないよ、手っ取り早く誰でもいいから付き合いたい」

 玲が男だったら、大批判をくらいそうな事を平然と言い放っている。

「別に恋愛なんてしなくても良いだろ。面倒なだけだよ」

「それは、シンジが誰かと付き合った経験があるから言えるんだよ。なければどんなものかわからない」

「そういうもんかね。なんでそんなに恋愛したいか俺にはさっぱりわからないね」

 まあ、俺も他人に誇れるような恋愛経験はない。
十六歳の時、三十歳のセレブ社長に飼われていた。それからも何人かと恋人関係になったが、玲が夢みるような、綺麗な関係の恋愛はした事がない。
そんな奴が人の心をうつ恋愛の歌詞なんてかけるわけがない。

「人が生まれる時は一人で生まれてくるでしょ?だから死ぬ時は誰かと一緒になって死にたい」

 いきなり玲がそんな事を言うので、俺は少し驚いた。

「哲学だな」

「切実な願いだよ。私の」

 玲がそう言って暗闇の海を眺める。
俺もつられて、同じように海を眺める。
昼間は綺麗な色をした海が確かにそこにあったのに、今は暗闇にのまれて何も見えない。
俺は言い様のない不安に襲われていく。
抗えない運命に飲み込まれるような、そんな気分だ。

 そこでいきなり、玲が叫び出した。

「あーイゾン君に、ご飯出すの忘れてた!!」