俺は結局海に潜って、何度もモリで魚をついたが、全然魚を捕まえる事が出来なかった。
大体、いきなり初心者がやって出来る様な事じゃない。

(せめて釣りとかにしろよ)

 俺は、心の中で玲に悪態をつく。
海の中で目を開けると、色とりどりの魚が泳いでいた。
日本ではあまり、見ることの出来ない様な魚がうようよ泳いでいた。

 俺は、魚を見る事に夢中になってしまい、魚は全然捕まえる事ができなかったが、しばらく海に潜っていた。
太陽の下に出て、海に入るなんて何年ぶりだろうか?
 バンドの活動といえば、大体夜が多い。
昼頃起きて、バイトに行き、スタジオに行く。
そんな生活を何年もしてきた。

 俺はアウトドアとは無縁の人生を歩んでいた。

自分がこんな所で、素潜りをしている事自体が面白くて、笑けてくる。

俺は、海に浮かびながら思う。
 
(こういう事、もっとしとけばよかったな)

 俺は何故かそう思った。
一匹も魚は取れなかったが、俺はそのままホテルに帰った。
ホテルに戻って、とりあえずシャワーを浴びて、今日買った服に着替える。

キッチンの方へ行くと、玲が戻っていた。
俺は一言文句を言ってやろうと思って、玲に詰め寄ると、逆に玲が俺に話しかける。

「シンジ。おかえり!今日の夕飯はチキンだよ!」

「は?」

「だって仕方ないじゃん、シンジ一匹も魚捕まえられないんだから。初心者にはやっぱり無理だったかぁ〜」

 そう言って玲は怒った顔をする。
その後ろで、熊さんがぽつりと言う。

「今日は始めから、チキンがメインだ」

「私、チキン苦手なんだよ〜魚が良かった〜」

(こいつ、自分が食べたいから俺に素潜りさせたのか?俺を海に落としてまで、、、なんて女なんだ)

 そんな話しをしていると、カブさんも登山から帰ってきて、皆んなで夕飯となった。
カブさんが、今日行った山の話しを皆んなにした。
標高の低い山だからと舐めていたら、とんでもない岩山で、登るのに苦労したらしい。

 俺はその話しを聞きながら、何かが引っかかった。
自分でも理由はわからないが、何か不思議な気持ちになった。
カブさんに、会った事があるような気がする、、、。
でも、この人はうちのバンドの曲を聞くような人には全く見えない。
だから、俺が組んでたバンドのファンとかではないはずだ。

 何故、俺は知ってる気がするのか、、、?