結局俺は、玲が選ぶ虹色みたいな派手なシャツや、ピンクのシャツを制して、無難な白と、グレーの無地のTシャツと黒い短パン、ビーチサンダルを購入した。
 玲は不満そうな顔をしてブーブー言っていたが、俺は問答無用で会計した。
 服を買うと玲は何故か海岸の方へ歩いていく。

「おい!買い物って何処に行くんだよ!」

 玲が、店が連なる街中から離れていくので、思わず声をかける。

「こっちこっち!」

 玲は何も気にしてないように、俺について来いと言ってくる。
玲が俺を連れて行ったのは漁港のような場所だった。

 「ここで魚を調達するの。今日の夕飯は魚料理だって、クマが言ってたから」

 玲がそんな事を言うが、店らしきものはなかったし、人もいない。

「何処で買うんだよ?直売所みたいなとこがあんの?」
俺が聞くと、玲が海の方へ行って覗いている。

「シンジ、見てよ魚が泳いでるから、した下!」

 俺はそう言われて、コンクリートの下の海をのぞいてみる。
そうすると、海の透明度が高いからか下を泳いでる、魚達が肉眼でもしっかり見えた。

「すげーな。水族館みたいだ、、、」

俺がそう言って感心して見ていると、玲がいきなり俺の背中を思いっきり押した。
俺は、あれよあれよと言う間に海の中に落ちて行く。
 ドボンッと物凄い水飛沫をあげて、俺は自分の身体に生ぬるい水が押し付けられるのを感じる。

 何が起きたのか一瞬わからなかったが、とにかく玲がやったと言う事だけは、わかった。
いきなり海に突き落とされて、鼻にも口にも海水が入って最悪だった。
俺は何とか海から顔を出し、玲に向かって叫んだ。

 「ふざけんなよ!お前何してんだよ!!!」

 本気で頭にきた。岸に上がって殴りつけてやりたくなったが、追い討ちをかけるように玲が俺に、持っていた槍を投げる。

 「あぶねーだろーが!!」

玲は俺に怒鳴られても全然気にしてないようで、俺に向かって笑顔で言ってくる。

 「シンジ!それで魚捕まえるんだよ!モリでついて!」

「は?そんな事出来るわけないだろ?やった事もないのに!」

「えー!じゃあ夕飯ないよ?お客さんの夕飯もないよ?いいの?」

「知るかよ!とにかく俺はあがるからな!
あがったらお前覚えとけよ!」

そう言って岸まで泳いであがろうとすると、玲が俺に言ってくる。

「クマ、怒ると怖いよ?いいの?
追い出されてもシンジ行く当てないじゃん」

…………確かに俺は逃亡してる身だ。

 他に行く当てなんてない。熊さんは、確かに怒ったら怖そうだ。なんせあの巨体だ……。

「私、フルーツ買ってくるから、それまでに魚十匹くらい捕まえといて!」

 そう言って、玲はスキップしながら、何処かへ行ってしまう。

  なんて奴だよ。とんでもない女だよ。
あんなめちゃくちゃな女会った事ない。

 いや?ちょっと俺の母親に似ているか?

俺は久しぶりに思い出した。もう何年も会っていない母親を。
今頃ニュースで、俺が強盗して逃亡していると、知っただろうか?
母が、何て思うのか、想像も出来なかった。