「あっ!クマ!シンジだよ!シンジ!この大きいのがクマ!」

「クマ?………」

 玲が紹介する気があるんだか、ないんだかよくわからない紹介の仕方をする。

「私のダディ!ここのオーナーだよ。クマって言うの。クマみたいに大きいでしょ?」

 玲の言う通り、クマと呼ばれるその男は、がたいも良く、熊の様だった。
表情は無表情で口数は少なそうだ。

「小峯 真二と言います……。よろしくお願いします」

 俺が頭を下げると、熊さんは俺の顔をしばらく見つめて、軽く頷く。
そして、座れと言うようにダイニングの椅子をひく。
俺がテーブルにつくと、玲がスープを持ってやってくる。

「召し上がれ」

 玲がそう言って微笑む。

「いただきます」

メニューは、パンに、野菜サラダに、ソーセージ、目玉焼きにスープだった。
一口、口にサラダを運ぶと今まで食べた事のない野菜の味がした。
 ただの、レタスやにんじん、トマトなのに味の濃さや、甘みが全然違うのだ。
 俺が夢中に、なって食べているのを見て、隣に座っていた、中年の男が俺に話しかけてくる。

 「どれも、信じられないくらいに旨いでしょ?
熊さんの料理の腕も勿論だけど、この島で育てている野菜が別格なんですよ。
 私は、元々野菜が得意じゃないんですが、ここの野菜はどれも美味しくて食べる事ができるんです」

 俺が話しかけられて、その人の方を向くと
その人が俺に向かって自己紹介をする。

「僕は、カブと言います。このホテルにしばらく滞在してます。よろしくお願いします」

そう言って、握手の手を出してくる。

「……え?…カブ?カブさん?」

俺は握手しながら、思わずまた尋ねる。

「はい。カブです」

そう言ってカブと名乗る男が微笑む。

「カブさーん!!お弁当できたよー!!」

 玲が大きな声で、キッチンからお弁当箱を持ってくる。

「ありがとうございます。今日は特大お弁当箱ですね」

「クンオン山に行くんでしょ?気をつけてね」

「ありがとうございます。それでは、私はお先に。ご馳走様でした」

 そう言ってカブと名乗る男は食堂から出て行った。

(カブって、随分珍しい名前だな…)

俺はそう思いながら、残りのご飯を口に運んでいく。